第22話

「で。初エッチの感想はどうですか?」

「……最高だった」


 ベッドの上で大の字になり、鞍馬先輩は憑き物が落ちたような顔で天井を見つめている。


「お陰で色々どうでもよくなってしまった……」


 当然だ。


 そのつもりでたっぷりサービスしたんだから。


 エッチしてて気づいたけど、僕の望みは鞍馬先輩が美術部に戻る事じゃなかったみたい。


 いや、それは勿論あるんだけど、ついでというか結果というか、ただ僕は鞍馬先輩に元気になって貰いたかっただけなのだ。


 だから、エッチを通して鞍馬先輩が元気になるのを実感して、ようやく僕は少しホッとしている。


 お陰で顎や舌がヘロヘロだけど。


 腕も痛いし足もパンパン。


 明日はきっと全身筋肉痛だ。


 でも、念のため聞いてみる。


「ダメでしたか?」

「……わからない。あまりにも気持ち良すぎて、胸のモヤモヤが全部消し飛んでしまった。その程度の悩みだったという事なら、やはりボクは芸術家失格なのだろうか……」

「そんな事ないと思いますけど……」


 芳しくない反応に不安になる。


 やっぱり色仕掛け作戦は安直過ぎただろうか。


 これでダメだったら恨むからねてっしー!


 なんて思っていると。


「そんな顔をしないでくれよ。飴村君とのエッチが最高だったのは間違いないんだから。本当に最高だった。最高という言葉でしか表せないのが歯痒いくらいさ」


 美術部で絵を教えている時と同じ柔らかな笑みを浮かべると、鞍馬先輩がわしゃわしゃと僕の頭を撫でる。


 気持ち良くて僕は背中がゾクゾクして子猫みたいな気持ちになる。


 今世の雄の本能で女の子に甘えたくなるけど、そこはグッと我慢する。


 一応これでもベッド上では男性優位キャラでやっているので。


 それはともかく、鞍馬先輩は立ち直る事が出来たのだろうかと心配する。


 この論争に答えなんか存在しない。


 ただ、それぞれの受け入れ方があるだけだ。


 僕として、AIなんか気にしないでまたみんなと楽しく絵を描いて欲しいのだけど。


 鞍馬先輩はなにを考えているのか、気の抜けた顔で僕の事を見つめている。


「……飴村君。エッチついでに、もう一つだけお願いしてもいいだろうか」


 なんだ、おかわりの要求か。


 まぁ、初エッチだし、女子はみんな性欲オバケだから、一回程度で満足するわけはないと思っていたけどさ。


「いいですよ。次はどんなプレイがお望みですか?」

「君を描きたい」

「え?」

「こんな所でやる事じゃないとは思うんだけど……。なんだか猛烈に絵が描きたいんだ。飴村君とエッチをして、前よりももっとずっと君の美しさが理解出来た。この感動が消えない内に形にしたい。ダメだろうか?」


 なにそれ。


 格好良すぎじゃん。


「い、いいですよ! 勿論! その為にエッチしたようなものですから!」

「裸のままでもいいかな?」

「なんだっていいですよ。鞍馬先輩が描いてくれるなら!」

「ふふ。ありがとう」


 普段から持ち歩いているのか、鞍馬先輩が鞄から鉛筆とスケッチブックを取り出す。


「なにがおかしいんですか」

「変わり者だと思ってね。君程の美少年が、どうしてボクなんかにそんなに良くしてくれるんだ?」

「そんなの」


 言いかけて口籠る。


 ちょっと考えたらすぐに理由はわかったけど。


 改めて口にするのはちょっと気恥ずかしい。


「鞍馬先輩の絵が素敵だからに決まってるでしょ」


 本当は絵を描いてる鞍馬先輩が素敵だからなんだけど。


 そこまでは流石に言えない。


 鞍馬先輩は既に絵描きモードに入っていて、左手に抱えたスケッチブックにサラサラと鉛筆を走らせている。


 ここはホテルでお互いに裸だけど、鞍馬先輩の表情にいやらしさは全くない。


 先程のエッチで悩みと一緒に煩悩まで吐き出してしまったみたいだ。


「嬉しいけど、素敵なのは絵だけかな?」


 スケッチブックを見つめながら軽口を叩く。


「調子に乗らないで下さい」

「はははは」


 爽やかな笑い声が心地よく響く。


「ありがとう。多分ボクは、もう大丈夫だ」

「……ならいいんですけど」


 気負いのない表情に今度こそ僕はホッとする。


 そして鞍馬先輩は残り時間をフルに使って僕の裸の絵を描いた。


「……凄い。別人みたい……。流石にこれは盛りすぎじゃないですか?」


 スケッチブックに描かれた僕は、本物の僕が霞んでしまうくらい神々しく見えた。


「まさか。全然足りないよ。ボクの感じる飴村君の千分の一にも届いていない。もっと上手くならなくちゃね」


 僕には想像もつかないはるか高みを想うような眼差しに、ぞわわっと鳥肌が立つ。


「今の発言、なんか芸術家っぽいですね」

「自分でもそう思う。惚れてもいいよ」

「だから調子に乗らないで下さいって」

「はははは」


 鞍馬先輩がお道化て笑う。


「この絵は僕だけの宝物にしておくよ。AIに学習させてやるのは惜しいからね」

「……やっぱり、気になりますか?」

「気にしないのは無理だろうね。でも、大丈夫さ。ボクの絵は無価値じゃないし、ボクの努力も無意味じゃない。そう言ってくれた人がいるからね」


 そんなわけで鞍馬先輩は立ち直り、美術部に復帰した。


 めでたしめでたし。


 と言いたい所だけど。


「スランプだ! 描けなくなった! ボクの才能は枯れてしまった!」

「はいはい。エッチしたいんなら素直にそう言って下さいよ」


 と、その後も度々ヘラるので、今でもこの通り身体の関係を続けている。


 ダメ男に引っかかる女の子ってこんな感じなんだろうなと思いつつ。


「ふふ、どうだい飴村君? ボクも結構やるようになっただろう?」

「ん、あぅ……。だから、調子に乗らないでくださイッ!? てばぁ……」


 セフレの中ではかなりエッチが上手い方なので、文句の言えない僕なのだった。

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貞操逆転世界で美少年に生まれたらビッチになっても仕方ないよね? モテまくりなのを良い事に今世はやりたい放題やらせて貰います。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA

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