第21話
そんなわけで翌日の放課後、てっしーから秘策を授かった僕は帰り道で鞍馬先輩を待ち伏せた。
「鞍馬先輩!」
「飴村君? 話なら昨日済んだだろう。なにを言われても美術部に戻るつもりはないよ……」
「僕はそうは思いません。だって鞍馬先輩、明らかに未練たらたらですよ。鞍馬先輩だって本当は絵を続けたいって思ってるんでしょ?」
僕の視線を受け止めきれず、鞍馬先輩は俯いた。
「そりゃね。出来る事ならそうしたいよ。でも無理なんだ。こんな気持ちじゃ……。所詮ボクはその程度の人間だったんだ。飴村君。今回の件でボクは思い知ったよ。いや、最初から分かってはいたんだ。ボクは別に絵が好きなわけじゃない。芸術にだって興味はない。芸術家を気取って男の子にチヤホヤされて、そういう自分が好きなだけだったのさ。君に心配される価値もない、薄っぺらい人間なんだよ……」
「今更ですよ! そんな事、僕は最初から分かってました! 芸術がどうとかいって、この人僕をモデルにしてエッチな格好させたいだけなんだろうなって!」
「はは……。手厳しいな……。まぁ、その通りだったわけだけど。だから、もういいだろ? 美術部のみんなには悪いと思ってる。でも、ボクがいなくたって別に平気さ。教えられる事は大体教えた。飴村君とのデッサン会を通してあいつらも絵を描く楽しさを知ったしね。ボクが世話を焼かなくたってどうにかなるよ」
「寂しいって言ってるんですよ! 僕も、美術部のみんなも! 鞍馬先輩だってそうでしょう!?」
「いい加減にしてくれよ!?」
鞍馬先輩がいきなりキレた。
「ボクだって出来る事ならもっとみんなと絵を描きたい! でも無理なんだよ! ボクは絵が好きだ! 飴村君の事を描いていて、本当に好きになってしまったんだ! もっと上手くなりたい、もっと綺麗に君を描きたい! みんなに褒められて、自分にも胸を張れる様な立派な絵を描きたいって欲が出てしまった! なのに、あんなもの見せられたら、素人でもあんな凄い絵が生み出せるのなら、ボクが描く意味はなんだ? ボクの努力にどんな意味がある? ボクの絵なんか何の価値もないじゃないか!」
「価値ならあります! 僕は好きですよ! 鞍馬先輩の絵!」
「お世辞なんかやめてくれ! ボクは描く側の人間だったんだぞ!? 僕の絵がアレに勝てるわけないじゃないか! あれはバケモノだ。人間の生み出した芸術の集合体、その結晶みたいな存在だ! ボクなんかが一生努力したって敵う訳ない。それどころかアレは僕が一年努力する間に千年分は進化する! 芸術は死んだ! 人が絵を描く時代は終わったんだ! お願いだから、これ以上ボクを惨めにさせないでくれ!」
「イヤですよ! やめるもんですか! だって鞍馬先輩は惨めなんかじゃない! 僕はそうは思わない! 思いたくもない! どれだけ上手かろうが、僕の事をなにも知らない素人がパソコンをポチポチやって五秒で出した絵なんかクソクソのクソですよ! 価値がなんだって言うんなら、そんな物にこそどんな価値があるんですか! 何度だって言ってやる! 僕は鞍馬先輩の絵だから好きなんです! 鞍馬先輩が僕の為に一生懸命心描いてくれた絵だから好きになれたんです! 感動して、ドキドキして、ジーンとしたんですよ! それを無意味だなんて言わないで下さい!」
僕だっててっしーの秘策任せでここに来たわけじゃない。
昨日は上手く言葉に出来なかったけど、一晩中考えてこの胸のモヤモヤを、なんで納得出来ないのかを言語化してきたのだ。
だっておかしいと思うから!
そう思う僕の気持ちは確かにここにあって、そう思うに足るだけのちゃんとした理由があるはずなのだ。
それがこれだ。
切り札の一つだ。
鞍馬先輩の思い違いを正す言の刃だ。
でも、これを凌がれたら後がない。
だから僕は同時にてっしーの秘策も使用する。
白昼堂々、ペロンとスカートの前をまくり上げる。
「なぁ!? ああああ、飴村君!? こんな所でなにを!?」
「秘策です。必殺技です。色仕掛けです。鞍馬先輩が美術部に戻って来てくれるなら、エッチしてあげます!」
「なっ!?」
てっしーは言った。
あんたがエッチを餌にすれば、大抵の女子は言いなりでしょ。
見も蓋もない話だけど、その通りだと僕は思った。
物凄く乱暴で強引でしょうもない手だと思うけど、だからこそ効果があると思った。
だって僕は嫌がる鞍馬先輩に僕のエゴで絵を続けさせようとしているのだ。
ちょっとくらい乱暴で強引な手を使わなければどうにもならないだろう。
問題はこれ程までにシリアスな状況で色仕掛けが通じるかだけど。
「ば、バカにしないでくれ! いいいいいくらボクが男好きの薄っぺらい芸術家気取りだからって、そんな安直な手に引っかかるわけないだろ!?」
そう言いながらも鞍馬先輩の視線は露になった僕の股間に釘付けだ。
どうやら効果はバツグンらしい。
あー、美少年でよかったぁ!
こうなれば後はこっちのものだ。
自慢じゃないけど女の子を誘惑するのは得意中の得意なんだから。
「いいじゃないですか、エッチくらい。鞍馬先輩だって僕とエッチしたいと思ってたでしょ?」
ヒラヒラとスカートを揺らしながら鞍馬先輩の劣情を煽る。
どれだけ綺麗事を吐こうが、前世の男と同じで今世の女の子はエッチな誘惑には勝てないのだ。
「そ、それはそうだけど……」
「ならしましょうよ。こんなチャンス滅多にないですよ? 今なら大サービスで鞍馬先輩のしたいプレイ、なんでもしてあげます」
「な、なんでも!?」
ちょろ~い。
まぁ、僕は神話級の美少年だから当然なんだけど。
チョロすぎてあれこれ悩んでたのがバカみたいだ。
チートでしょこれ。
と思うけど、鞍馬先輩にも一応意地はあるらしい。
「い、いや、やっぱりだめだ……。そんな色仕掛けに乗ってしまったら、いよいよボクは芸術家失格、絵描きを名乗る資格を失ってしまう! ボクはこれ以上自分を嫌いになりたくない!」
ギリギリと歯を食いしばり、盛大に乳首を勃起させながら鞍馬先輩がギュッと目を閉じる。
僕はトコトコと鞍馬先輩の足元に近づいてこの世界の平均で言えばかなり小ぶりだけど僕からしたら十分大きなお尻をさわさわと優しく撫でた。
「ふぁぁぁっ!? あ、飴村君!? や、やめてくれ!? これ以上ボクを誘惑しないで!? お願いだよ!?」
「誘惑なんかしてませんよ。僕は鞍馬先輩の誤解を正そうとしてるだけです」
「ご、ごか、イッ!? な、なんの話だい?」
鞍馬先輩はすっかり目の奥をとろんとさせて、切なそうに太ももをモジモジさせている。
今頃鞍馬先輩は頭の中おちんちん状態ならぬおまん〇状態になってるはずだ。
あと一押し。
些細な言い訳、正当性を与えてやれば鞍馬先輩は堕ちる。
堕とされる事を鞍馬先輩の本能が望んでいる。
「鞍馬先輩の絵の話ですよ。価値がないって言いましたけど、やっぱり僕はあると思います。だってこの僕にここまでさせるんですよ? AIの絵にそんな事出来ますか?」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「ならいいじゃないですか。ていうか、それこそ人が絵を描く意味じゃないですか。何度も言わせないで下さいよ。僕は鞍馬先輩の絵が好きなんです。僕の為に、これからも絵を続けてくださいよ。それじゃあダメですか?」
ダメ押しに硬くした相棒を鞍馬先輩の太ももに押し付ける。
「あ、あ、あ、あ……」
しゅわしゅわと鞍馬先輩の理性が蒸発する音が聞こえる。
「飴村君!」
我慢出来なくなった鞍馬先輩が思いきり僕に抱きつき、ヘコヘコと腰を押し付けながら貪るように僕の頭の匂いを嗅ぎまくる。
「こら。気が早いですよ。続きはホテルで、ね?」
「は、はひ……」
理性を失くした鞍馬先輩の手を引いて、僕は最寄りのホテルを目指した。
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