第20話

「てっしー、出すよ」

「にょほぉぉぉ!? おぉ!? おぉ!? おぉ! ぉほぉぉ……」


 ぶびゅぶびゅと僕のイライラがたっぷり詰まった安全日の安全汁をぶちまけられ、てっしーが獣のような声で絶頂する。


 場所はホテルで体位は騎乗位。


 と言ってもそれは今世の話で前世で言う所の正常位だ。


 一般的に今世の女性的には恥ずかしい体位という事になってるみたいだけど、僕の体感では騎乗位好きの女子の方が多い気がする。


 特にてっしーの場合はM気が強いのでこの手の恥ずかしい体位が大好きだ。


 なんでこんな事をしているか?


 イラついたからだ。


 鞍馬先輩の悩みというか挫折というか絶望みたいな話を聞いても僕はなにを言う事も出来ず失意のまま部屋をあとにする。


 なにが学校一の美少年だと無力感とやり場のない怒りでグチャグチャになった僕は憂さ晴らしにてっしーを呼び出してそのままホテルに直行した。


 てっしーは僕とエッチ出来るなら理由なんてどうでもいいし僕の様子がおかしい事にも気付いているからなにも聞かずに僕の憂さ晴らしに付き合うついでに思春期の女子の底なしの性欲を発散させているというわけだ。


 あぁもう! 僕はなにをやってるんだ? と自己嫌悪に駆られるけれどイライラをムラムラに変換して吐き出したから少しだけスッキリして冷静になる。


 サンキューてっしー。


 持つべきものは都合のいいセフレだ。


 なんて思いながらチンチンを拭いていると。


「あー……よがっだぁ……」


 低い声を出しながらビクビクと余韻を貪っていたてっしーが熊みたいにのそのそと身を起こす。


「で、なにがあったの?」

「……別に。エッチしたかっただけだよ」

「もう! 嘘ばっかり! 飴村からあたしを呼び出すなんて珍しいし、明らかに憂さ晴らしのイライラえっちだったじゃない!」


 流石セフレ、お見通しか。


 でも僕は僕で弱みを人に見せるのは得意じゃないから聞いて欲しい気持ちはあるけど恥ずかしさが上回って話す気にはなれない。


「てっしーMだから好きでしょ、そーいう雑なエッチ」

「え、Mじゃないし!? 楽だから腰振らせてあげてるだけだし! 勘違いしないでよね!?」

「お尻叩いてー、乳首抓ってーって叫んでたのは?」

「あーあーあー! 知らない知らない! もう! 恥ずかしいからって誤魔化さないでよ! あたしになにか聞いて欲しい話があるんでしょ!?」


 耳を塞いでイヤイヤするとてっしーが図星を突く。


 まぁ、お決まりのパターンではあるのだ。


 てっしーはエロ雌だけど口は堅いし、僕のご機嫌取りをしてゴマすりをしたりはしない。


 秘密の相談をするにはうってつけの相手なのは確かだ。


 別にてっしーに相談して解決するなんて思ってないけど、とにかく僕は誰かに話しを聞いて貰いたい。そうしないとやり場のない想いがグルグルして小さな胸が破裂しそうだ。


 もはや手続きと化した照れ隠しのやり取りを終えると僕は鞍馬先輩の話をてっしーにした。


「あーね。そういう話、最近ネットでよく見るわよね」


 てっしーの反応はまるっきり他人事で素っ気ない。


 実際他人事だし、てっしー的には僕とのエッチの対価で相談に乗っているだけなので本質的には興味がないのだ。


 感情的にはムカつくけどこういう時の僕は冷静を欠いてしまっているのでそれくらいの方がありがたくもある。ムカつくけど。


「……てっしーはどう思う?」

「仕方ないでしょ。ツイッターでバズった時点でなにかしらのクソリプは飛んでくるし。相手にするだけ無駄じゃない?」


 いかにも今世の女子らしい合理的な話だ。


 でも僕は納得いかない。


「それはそうだけどさ、そういう話でもないんだよ。ただのクソリプなら鞍馬先輩だってムカつきはしても絶望はしなかったと思うし……」

「AIが悪いって言いたいでしょ? 鞍馬先輩がどれくらい描けるのか知らないけど、今までそれなりに努力して身に着けた画力を絵なんか描いた事もない素人に否定されてそれ以上の物を出されたらやる気なくなるのは分からないでもないけど。別にそれって鞍馬先輩だけの問題じゃなくない? イラストレーターとか漫画家とか、同じような想いをしてる人は沢山いるだろうし、それでもめげずに続けてる人はいるわけでしょ?」

「そうだけどさぁ……」


 言いたい事は僕だってわかる。


 でも心情的には許容できないし納得もしたくない。


「あたしだって別に鞍馬先輩が悪いとは言わないわよ。誰が見たってこの場合クソリプでAI画像送りつけてきたカスがクソでFAでしょ。でも問題はそこじゃなくてAIの画像生成能力そのものでしょ? こんなすごい物があるんだったら自分が絵を描く必要がない。その意味もない。だから描く気がなくなっちゃった。それだけの話じゃない。突き詰めるとそれって鞍馬先輩のモチベーションの話で、先輩もそれがわかってるから黙ってフェードアウトしたんでしょ。言い方は悪いけど、AIが芸術を殺したんじゃなくて先輩が勝手に芸術を見限ったって話じゃない?」

「そんな言い方なくない!?」

「だって本当の事じゃない。AIで素人でもプロ並みの絵を描けちゃうのは本当でしょ?」

「描いてないよ! 出力してるだけ! それだってプロとか絵が上手い人の絵を学習してやってるんだよ! それを自分の手柄みたいな顔でアップしちゃってさ! 泥棒と一緒じゃん!」

「怒らないでよ! 使い手がカスなのはあたしだって同意してるでしょ? それとも飴村はAIそのものが悪みたいな話がしたいわけ?」

「そうじゃないと思いたいけど……。こうなっちゃうとね……。実際鞍馬先輩は傷ついてるし、同じような想いをしてる人は絶対いるわけじゃん……」


 今回の件で僕はAIがちょっと嫌いになってしまった。


「だからさぁ、それは使う人間の問題でしょ? 学校で銃の乱射事件が起こったからって銃が悪いとはならないでしょ?」

「……でも、銃がなかったら乱射事件は起きないよ。包丁で無差別殺人をやろうなんて人は多くないし、やった所で殺せる人間の数なんかたかが知れてるし。実際日本じゃその手の事件はほとんど起きないでしょ? バカに凄い道具を与えたら良くないんだよ」

「それはそう。でもさ、その例で言うなら銃が発明された時は侍の人はこう思ったんじゃない? こんな凄い道具があるんなら大変な思いをして剣術を頑張る意味がないって。いくら剣の修行したって素人にズドンと撃たれておしまいだって」

「それはそうかもしれないけど……」

「あたし達が知らないだけで似たような事があっちこっちで起きてると思うのよね。便利になるってつまりそういう事じゃない? 素人でもプロみたいな事が出来るようになるって言うか、頑張らなくてもよくなるっていうか……。色々楽になるって事よ」

「それはわかるけどさ……」


 やっぱり僕は納得いかない。


 なにを言われた所で、鞍馬先輩があんな想いをするのは不条理だという怒りしか湧いてこない。


「あたしだって飴村の気持ちはわかるわよ。車は便利だけどそのせいで交通事故が起こるわけだし。便利になると良い事が沢山あるけど、ちょっとは悪いことが起きるものよ。でも全体で見たら良い事の方がずっと多いし、だったら仕方ないじゃない」


 カチンとくる。


「てっしーは僕が車に轢かれて死んでも同じ事が言えるわけ?」

「ちょっと! それは流石に屁理屈でしょ!?」

「どこが? そういう話じゃん」

「そうだけど……。だからって今更この世界から車を失くす事なんか出来ない訳でしょ?。AIだって同じよ。出来ない事についてあれこれ文句言っても仕方ないじゃない」

「仕方ないけど、文句くらいは言ってもいいでしょ」


 イライラで僕の頬はどんどん膨らむ。


 八つ当たりなのはわかっている。


 言葉遊びでてっしーをイジメているだけだという事も。


 でもどうにも出来ない。


 僕は納得がいかない。


「あぁもう! そもそも飴村はどうしたいの? 別にこの世からAIを消し去りたいってわけじゃないんでしょ?」

「それはそうだけど……」


 僕はどうしたいのだろう。


 改めて問われると困ってしまう。


 今はただ、てっしーに向かって怒りのままに言葉をぶつけてスッキリしたい。


 でもそんなのは全然建設的じゃないし意味がない。


 根本的な問題が解決しない事にはスッキリしようがないのだ。


「……僕は鞍馬先輩を助けたい。また絵を描いて欲しい。絵を描く事を好きになって欲しい」

「でもそれって飴村のエゴじゃない?」

「そんな事!」

「ないって言える?」


 冷ややかな目で見つめられて僕は言葉に詰まる。


「鞍馬先輩だってバカじゃないんだから。なにが問題なのか自分でも分かってる筈でしょ。ていうか当事者なわけだし、わかった上で出した答えがアレなんでしょ。芸術とか絵とかとすっぱり手を切る。言い方は悪いけど、鞍馬先輩は芸術家じゃなかったのよ。本物の芸術家ならAIなんか気にしないで絵を描ける筈でしょ?」

「……そんな事ないと思うけど。芸術家だって承認欲求はあるだろうし。みんながみんな最初から芸術家だったわけじゃないじゃん。そうなる前に潰されちゃったのが嫌だって言ってるの!」

「だから怒らないでってば! 言葉の綾でしょ! あたしが言いたいのは……あぁもう! 怒らないでよ? 鞍馬先輩はそこまで絵が好きじゃなかったって事よ! AIで誰でも楽に絵を描けても、それはそれとして絵を描きたい、描かずにはいられないみたいな情熱はなかったって事。本人も今回の件でそれに気付いたから、これ以上嫌な思いをする前に絵と距離と取ったのよ」

「……僕は絵が好きだからこそ距離を取ったんだと思うけど。これ以上絵を嫌いになりたくないから。それってやっぱり好きって事じゃない?」

「それでもいいけど。だったら猶更余計な事するのは違うんじゃない? そもそもこのまま続けて芸術家になれるわけでもないし。いつかは鞍馬先輩も見切りをつけなきゃいけなかったわけじゃない。それが早まっただけの事でしょ」

「そんなのわかんないじゃん!」

「あたし達にはね。でも鞍馬先輩はそう思った。そう決めつけちゃった。残念だけどそういう話でしょ」


 その通りだと思う。


 本当にそう思う。


 鞍馬先輩が自分で言っていた通り、心が折れてしまっただけという話なのだ。


 それなのに外野の僕はその事実を認められず、勝手にキレて騒いでいるだけなのだ。


 頭では分かる。


 頭でだけなら大抵の事は理解出来る。


 でも。


「やだやだやだやだぁ! そんなのやだぁああああああああ!」


 僕はどうしても納得出来ずベッドの上でジタバタと駄々を捏ねてしまう。


「エゴでもいいよ! 僕は鞍馬先輩に絵を描いて欲しい! 絵を描いてる鞍馬先輩が見たい! 美術部のみんなとバカやってる所が見たい見たい見たい見たい~!」

「またそんなわがまま言って……」

「美少年だよ! わがままくらい言うよ! ねぇてっしー! なんとかならない? 風紀部パワーとか使ってさぁ!」

「無茶言わないでよ!」


 呆れ顏で言ってから、てっしーはふと考え込む。


「一応確認するけど、飴村は鞍馬先輩がまた絵を描いてくれればそれでいいのよね?」

「まぁ……。美術部にも戻ってきて欲しいけど……」


 またみんなと絵を描いてくれたら心変わりを起こす可能性だってなくはないし。


「力技だけど、それくらいならなんとかなるかも」

「本当に!? どうやるの!?」

「やるのはあたしじゃなくて飴村だけど、わかんない? あんたの得意技なんだけど」


 どことなく呆れたような顔でてっしーが尋ねる。


「クイズはいいから! 勿体ぶらずに教えてよ!」


 焦れる僕にてっしーは意地悪な笑みを浮かべる。


「ん~。タダっていうのはちょっとね~」


 あぁもう、このエロ雌は!


「はいはい、わかりましたよ! なにして欲しいの?」

「えへへ~」


 嬉しそうにはにかむと、てっしーはスパンキングで真っ赤に腫れた巨大な桃尻をぶりんと向ける。


「お尻の穴……。してみたいな~……なんて?」

「うわぁ……」

「だってぇ!? 一回くらいしてみたいでしょ!?」

「別にいいけど、どうなっても知らないからね?」


 入れる方なら経験あるし。


 そんなわけでお望み通り僕はてっしーのお尻を掘りまくった。


「はい、これで満足?」

「ぉ……ぉほ……お尻の穴、めくれたぁ……」


 シーツをお潮でびしゃびしゃにして、てっしーが初めてのお尻の余韻に震えている。


 答えを聞きだすにはもう少し時間がかかりそうだ。

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