生きてるだけで全部損

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父親と母親が首を吊って揺れている。

遺書には「疲れた」と一言。俺に向けてメッセージがあるわけでもなく、本当に「疲れた」だけ。夫婦揃って疾患持ちで子供なんてつくればそりゃ確かに疲れるだろうが、生む前に気付かないものか。だいたい俺だって疲れているぞ馬鹿野郎。アホな親を持ったばかりに学校行事やご近所付き合いで四苦八苦だ。愛想笑いが上手くなった反面自己嫌悪の毎日だよ。「生活保護じゃろくな飯も食えねぇよなぁ」なんて嫌味言われながら野菜買った経験もないくせに何が「疲れた」だ。この垂れ流しの糞尿だってそうだ。自分達は俺のおしめを替えるのさえ人任せしてしていたくせに好き放題放り出しやがる。ろくなもん食べてないから酷い悪臭だ。これは果たして俺が掃除しなきゃならんのか。ならんのだろうな。チクショウ、俺が何したってんだ。

……

着信。スマートフォンに表示される名前は、アイカ。

「もしもし」

「もしもし。今暇でしょ。遊び行こうよ」

「悪い。両親が首吊ってるから無理だわ」

「……そういう嘘はイヤだな」

「写真、送ろうか」

「……警察とか……救急車を呼んだ方がいいよ」

「これからそうする」

「そう……」

「なぁ」

「なぁに」

「俺、これからどうなんのかな」

「……ごめん、分かんない」

「いや、そうだよな。変な事聞いて申し訳ない」

「……困った事あったら、なんでも言ってね」

「さしずめ今日の夕食をどうするかなだな」

「家、来てもいいよ」

「……やめとくよ」

「そう」

「あぁ、じゃ、切るわ」

「うん、またね」

……

アイカ、困っていたな。悪い事をした。

まぁ、生きてりゃ詫びも入れられる。それより今は死んで文句も言えなくなったこの子不幸者どもが残した問題について考えたい。遺産や親権、これからの生活。不安が山積みだ。生きてるだけで全部損。まったく、割に合わない人生だ。