第5話 晨星、『華ロリ』を語る
高校の時、世界史より日本史の授業が多かったので詳しくないんだけど、前世の中国的に考えたら、この世界は「唐時代」なのかな。
と、胸まで引き上げた
私が生まれる前の作品は、着物みたいな襟合わせの服やチャイナドレスを思わせる詰襟が多かったけど、リアルタイムだと中華風ファンタジーは唐代の漢服が多かった。
やっぱり、天女の羽衣を思わせるような
それとも、大胆にも胸を開けた服だからか。
ソシャゲの女キャラが出てくる時、胸の大きさを強調せず、露出が控えめだと安心できた私は、結構複雑だ。
「そう言えば
私の部屋で、頬杖ついた直くんがそう言う。
「そうだね。変?」
「いや、よく似合うと思うよ。髪色と」
私の髪は金色だ。
私の好きだったゲームのヒロインは、金髪に青いドレスを着ていた。青と金はよく映えるイメージがある。それに。
「
私がそう言うと、あ、と直くんが声を上げる。
そして気まずそうに顔を逸らし、呟く。
「……あの男、ちゃっかりしてるな……」
「え?」
「何でもない」
ところでさ、と直くんは言う。
「舜雨って、瞳の色藍色だよね」
「? そうだね」
「……そこで気づいてよ」
なんだろう。直くんが何言ってるのかわからない。いつもの事だけど。
あ、でも、舜雨くんの瞳と一緒なのか。全然認識してなかったから、ちょっと気恥ずかしいな。推しの概念を抽出したグッズを持ってるみたいな。
推しと言えば、死ぬ直前じゃ後宮モノが流行ってたな。私も何となく読んだり見たりしていた。
ここがコミケ会場だったら、今着てるの、コスプレみたいなものか。いや、コスプレではないんだけど。
でもせっかくなら。
「生きているうちに、華ロリ着てみたかったなあー……」
アジアとロリータの融合。チャイナドレスを思わせる詰襟のタイトさ、トップの生地と揃えたシックなレイヤースカート、その下から見えるフリルのスカート。
私は全体にフリフリしているよりは、上がタイトで下にボリュームを持たせるやつが可愛く見えた。
まあ、高くて普段使い出来そうにないから、購入する勇気はなかったんだけど。
「華ロリ?」
一人言で言ったつもりだったのに、どうやら直くんに聞こえていたらしい。
あーだこーだこんな感じ、と説明すると、ふうん、と直くんが言った。
「それが着たいの?」
「着たいと言うと……」
恥ずかしい。この一言につきる。
まず、この時代の美的感覚。美しさという点においては、ほとんど現代と変わらないけど、ただ羞恥心のポイントが違う。
この国では胸を見せてもさほど恥ずかしくないけど、足を見せるのは死ぬほど恥ずかしい。
この感覚、いまいちよく分からなくて、よく養父にギョッとされてしまった。
華ロリはふわりと円形に広がるスカートが魅力的なのだから、どうしても足が見えてしまう。
勿論、私も生足をさらすのはちょっと抵抗があるので、ニーソかタイツを履けたらいいなあ、とか思ってるんだけど、あのピッタリした感じが受け入れられるのかわからないし、何よりこの時代の裁縫技術で作れるものなんだろうか。
「技術は置いといて、ごく私的な場所なら大丈夫じゃない? 入るの、女官か私だけだろうし」
「キミは入るんだ」
「大丈夫、別に君に対して性的な興味はないよ」
サラッと妃候補に対して酷いことを言う。
でも私も、別に直くんに見られても恥ずかしいとは思わない。直くんを女っぽいと思ったことは無いけど、同性のような距離感なのだ。
むしろ、私の世話をしてくれる女官たちと一緒にいる方がドギマギする。
「じゃあ、昕氏や舜雨には?」
直くんに言われて、私は考える。
養父は、親にコスプレ姿を見られるという、また別の恥ずかしさだ。頭抱える姿まで想像出来る。
舜雨くんは……。
「絶対無理」
見せられない。見られたら死ぬ。絶対死ぬ。
多分舜雨くんが悪くいうことはない。むしろ気遣って褒めるかもしれない。真顔で。余計死ぬ。
好きな人に見られたい姿もあれば、見せたくない姿もあるのだ。
私がそう言うと、今度は面白そうに「へえ……」と直くんが笑った。
コイツ何か企んでんな。
そう思った次の日。
「桃花と申します。尚功局に務めております」
そう言って、桃花さんは綺麗に拝礼した。
私は一瞬呆気にとられ、すぐに我に返る。
顔をあげてください、と言うと、ゆっくり桃花さんは顔を上げる。
艶々の髪に透き通る肌、目元から頬に掛けてうっすらピンク色のチーク。パッと見て美人だな、と思った。
――けど、一番目を惹くのは、きれ長の目と長いまつげ。
そういえば、私がフォローしていた絵師さんが、「中国じゃ、切れ長の目でまつ毛が長い、大人っぽい目元を『桃花眼』って言うらしい」と、宝石のような目のメイキングをいっぱい描いてた。
まさに桃花さんの目は、「桃花眼」なんだろう。左目の下には小さなほくろがあって、さらに艶やかに見える。
「これからよろしくお願いいたしますね、桃花」
灌国において、六局の長官以外の宮官は苗字を名乗らない。家の名前を出さないことで、派閥争いを防ぐためと聞いたことがある。
桃花さんの家も、我が家より地位が高い可能性がある。それでも、宮官は皇家の奴婢という立ち位置なので、妃候補である私にも拝礼するのだ。
――人の上に立つのも跪くのも嫌いだけど、彼女の礼儀に泥を塗らないためにも、私もまたそれなりの振る舞いをしないと。
それはそれとして、この状況は何?
ちら、と直くんを見ても、直くんは何も言わないで見ているだけ。いや、キミが連れてきたんだから説明しなさいよ。
そこまで考えて、ハッと、私は思い出す。
尚功局って、確か裁縫や織物、染色に携わってなかったっけ。
昨日私は『華ロリ』について直くんに話した。そのタイミングで尚功局の人が来てるってことは、作るよう依頼しろと!?
直くんを見ると、私が思い当たったことに気づいたのか、さらにニヤニヤ笑っていた。
桃花さんを見ると、表情には出てないけど、「どうして私呼ばれたのかしら……」と、若干戸惑っているようにも思える。
あ、これ、私から言い出さないと話進みませんね!?
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