第22話 もちもちまっしゅるーむの栄光①

 栄光時代はいつだろう。全日本の時でないことは確かだ。いまは日本代表を全日本とは言わないけど。


 なんにせよ『パンスタ』には国別対抗と銘打たれた国際大会は存在しない。


 ただ、世界大会の出場チームを代表と呼ぶ場合もある。特にその国からの唯一の進出チームであれば尚のこと。


 そしてそれが『パンタレイ』の生まれた国からの選手たちならば輪をかけて。



 俺は学食のテーブル席なんていうこの上なく無関係な場所で古い記憶を脳裏に蘇らせることになった。懐かしささえ覚える。


 初心を思い出す。俺が『パンスタ』をはじめて知ったのは世界大会。そして出場する選手たちの姿こそが一体となって心に刻まれているのだ。


 それと、もう一つ。


 ガルと、負けたら俺の弟子をやめる、という謎ルールで戦い順当に負けた貫崎原さんの、目の奥に光る火を、それによく似た輝きを、俺はよく知っている。


「もちろんそんなのは認められないって抗議して、なんなら喚き散らかして、それで一週間後にもう一回勝負するって無理矢理決めたんだけどね。……負けた後に」


「すげー」


 純粋にすごい人だと思った。大げさではあろうが年下に負けて認められずに泣き喚くとか、誰だよ貫崎原さんを人としての出来が違う完璧超人の超絶優等生とか言った奴。


「だから改めてお願い、向井君。……『パンタレイスターズ』を教えて。ガル君に勝てるまで」


「……いいよ。いいよ、やろうか。やってみよう」


「ちなみに一週間で勝てる可能性は?」


「ゼロ。ない。無理です」


「だよねー」


 そういうわけで、目標を書き換えた俺たちが最初に考えなければいけないことは決まった。


 どうやって一週間を一週間ではなくすか。


「もう一回お願いしてみようか、一週間は短かったからもっと期間伸ばしていい? って」


「……とりあえずその案でいこう」


 妙案はないから正面突破を試みるとして、あと他にも考えなければいけないこと確認しとかなければいけないことがいくつかある。


「あはは、そんな目で見ないでよ。大丈夫、本気だよ。でもきっと向井君の考える本気とは違うと思う。それは……またあとで、改めて話そう? もうお昼終わっちゃうから」


「あ、ほんとだ。いつの間に。ごちそうさまでした。じゃあ、あとでって、いつにする?」


「今日は部活があるから……そのあと電話するね。今日はちゃんと出てね? 電話」


「さすがに出ますって」


 空になったトレーを手に席を後にする。返却口に寄って学食を出て、貫崎原さんとはすぐに別れた。お花摘んだりとかあるからね、待つとかないからね。


 一人、教室までの廊下を歩く俺は、ふと思った。


「そういえばもうすぐ期末試験だ」


 ゲームやってる場合じゃないかもしれなかった。


「てか俺ら受験生……」


 かもじゃなくてないのである、ゲームやってる場合では。俺は目を閉じて顎に皺を寄せておいた。


 なるようになーれ。

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才色兼備の『雪姫』にゲームを教えることになりましたが授業料はツケだそうです さくさくサンバ @jump1ppatu

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