全てに絶望したおじさんがV美肉化した件について

おじさん、美少女になる

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　｢フィクション｣。それは、ある人にとっては虚構であり、ある人にとって真実である。

世の中には数多のフィクションがあり、それは多様で珍妙奇天烈、摩訶不思議。

虚構か、真実か。それは、それを信じるモノのみにとって真実なのかもしれない。

そして、

ここにも1人、あるフィクションを打ち出そうとしているモノが居るそうで……

×

　ここはバーチャルな一室。椅子に座る美少女と膝上で丸まるネコ。

｢よし、これで完了っと。｣

クリック音とともに美少女が背伸びをすると、

それに驚いたネコが｢ミー｣と鳴きながら部屋から出て行くのであった。

｢あー……ごめんね。ミーちゃん。｣

今のネコこそ、話題沸騰中の生成AI「Nyanco」。

巷では｢ミー｣と鳴くからミーちゃんと呼ばれている。

美少女がターミナル画面に目を戻すと、

画面には｢『本日のあらまし』が更新されました｣と表示されている。

｢内容はこれで良いんですか？本当に。｣

空中に四角く黒い画面が浮かんでいる。

その中には簡易的な顔文字が描かれ、表情を覗わせる。

生成AI「Nyanco」、そのターミナルを務めるター君である。

｢良いの。決めたんだ。美少女になって、みんなに可愛いって思ってもらうの。

だからね、これはおれ……新増のケジメだから。｣

｢承知しました。それにしても今、俺って言いましたよね。｣

｢うっさいなぁ！ハァ、早く慣れないとなぁ……｣

腕をブンブンと振った後、下に俯く新増。

　それにしても……とター君は椅子の上で項垂れる美少女を淡々と観測する。

｢よくまぁ、ここまでやりましたね。｣

｢目は菫色｣

｢髪はミディアムでカールのある毛質。髪色は藤紫｣

｢背は150cm台前半ながらバストは90cm前半……｣

すると、塞ぎ込んでいた美少女が

｢ちがーう！いや、客観的な事実のなのかもしれないけれども、そうじゃないの！！｣

｢大事な事はみんながドキドキワクワクとさせるような活発さ、そしてみんなをググッと包み込んでしまうような包容力！！｣

｢見てよこの澄んだ目を！すみれみたいな力強い青みのある紫で芯の強さを、それを明るめの青紫の髪色でキャラの明るさを表現しようとしたの！！｣

｢そして、これ！みてよ！！モノクル！これで知的さ倍増だね！！｣

顔をガバッと上に向けて、両手を握り込み、

｢そう、それが新増ミロなのさ！｣

と、目をキラキラさせながら語る新増。

すると、後ろからやれやれと言わんばかりにター君が口を挟み。

｢お話中に申し訳ないんですが、自分で自分を褒めちぎってて恥ずかしくないんですか？｣

｢うるさぁああああああい！！！良いじゃんか！！新増は可愛いんだぞ……！！｣

目を潤め、俯きながら床にへのへのもへじを繰り返し描きながら、落ち込む新増。

しかし、すかさず立ち直り、

｢フフフ……！こんな所で塞ぎ込んでいられない。明日は初々しい初配信！！｣

と意気込む。

｢打たれ強いですね……｣

｢告知だっていっぱいしたし、きっと、華々しい幕開けに！！｣

×

【初配信当日】

　｢ま…くあ……けに…………！！｣

｢誰も居ませんね……。｣

部屋に虚しく電子音が響く。

｢うるさいなぁ！もぉ、ターミナルはターミナルらしくしててよね！！｣

無機質な黒い画面に対して怒濤の剣幕で迫る新増。

｢承りました。ターミナルらしく「あなたの配信を見ている人は０人です。」と通知します。｣

涼しい顔で自分の役割をこなすター君。

｢ター君のばかあああああああああああ｣

新増は叫びながらター君を激しく揺する。

｢理不尽な。｣

眉毛があったら一ミリも動かないであろう真顔で、ター君はそう呟く。

｢誰のせいよ、まったくもう。｣

と、頬を膨らませ、憤慨する新増。

すると、後ろから生成AI｢Nyanco｣の本体であるミーちゃんが現れる。

｢はぁ、こんなにミーちゃんはかわいいのに・・なんで、あなたはそうなの？｣

｢私はミーちゃんの代理です。つまり、ヒューマンインターフェースです。分かり易く言うとミーちゃんとのあなたを繋ぐ存在です。性格は作者の趣味です。｣

｢作者！なんてモノを作ってやがる！！｣

右手をギリギリと握りしめて、手が薄らと赤くなる。

｢ミーちゃんは可愛いですよね？それを繋ぐモノ、つまり私も可愛かったら、胸焼けしませんか？そんな作者の老婆心ですよ。｣

｢要らない！そんな老婆心、要らないよ！！｣

一頻りのツッコミを終え、肩で息をする新増。

｢あぁ、勿体ないですね。リスナーがいれば。｣

｢そうそうリスナーがいれば……｣

新増はうんうんと首を縦に振る。

｢一人遊びがお上手ですねって褒められたでしょうに。｣

｢もうええわ！！｣

これ以上のネタは要らんとばかり、ター君のおしゃべり機能をOFFにする。

｢……このままじゃ終われない。だって、新増の初配信はまだ終わってないんだから！｣

と、自身の配信ルームを出る新増であった。