兄の話

@omuro1

俺は長男

俺が商業高校を卒業して選んだ道は、工場勤務だった。



ざわめく大河に、大して大きくもない「大橋」が架かっている。


工場へと向かう朝の渋滞は、いつも苛立たしいほどのろかった。


車内で無駄に過ごす時間の中で、俺はしだいに気力を失っていった。



その状況が変わったのは、夜間勤務に移ってからだ。


工場が静寂に包まれた夜、俺は自由を感じた。


工場内に漂う油の匂いさえも、夜にはどこか清々しく思えた。



働き続け10年が過ぎ、ついには表彰までされた。


だが、俺は後輩たちの尻ぬぐいをさせられる立場に甘んじていた。


だからさ、辞めてやった。


胸の内で「ざまぁみろ」と叫んだ。



腐った会社に縛られる必要なんてなかったのだ。


それからの俺は、まさに自由そのものだった。



あれから15年が経つが、まともに働くこともなく過ごしている。


家族のお金で生活するなんて、昔なら考えもしなかった贅沢だ。


俺は長男だから、家族の中でも特別な扱いを受けている。


買いたいものを買い、食べたいものを食べられる。


ふと気づくと、俺が残した残飯を、弟が晩飯にしていた。


「我慢は無料ただ」とか「捨てるなら食べる」と言っている。


それを見るたびに、笑わずにはいられない。



弟は山で働いているらしい。


汗をかき、土にまみれ、必死に働く姿を思い浮かべると、俺が快適な部屋にいることに、否応なく優越感を覚える。


室内のひんやりとした空気が、外の暑さとは無縁の世界を作り出し、エアコンの風が心地よく肌を撫でる。


まったく、長男でよかったと心から思う。




時々、夜中に目が覚める。


静まり返った部屋の中、時計の針の音だけがやけに大きく響く。


気づけば、弟の働く山の風景が頭の中に浮かんでいた。……ムカつく。


今夜も窓の外では、静かに星が瞬いている。

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