第2話
なんで?なんで僕は生きてるの?なんで処分されないの?
天界の規律を破ったのに。いけないことをしたのに。
「あ、の?」
「いや可笑しいよ!なんで?急に規律変更とか?いや、あれは神様が作ったやつだしそれはないかじゃあどっかでもっと悪いことしてるヤベー奴がいるとか?いや、こっちも結構ヤバいんですけどー! 天界の人一!起きてるー? あれ、もしかして寝てるのか? お昼寝ですかー?そろそろ起きないと晩ごはん食べれないですよー? うーん。返事 がない。もしかして悪魔たちに本部がやられてる?これは戦争中?現世に出ていた僕だけが生き残ってる系?いやいや、仕事中の奴らもっといるだろ! それともあれですか? これからの動向確認して、もっと悪者にしてやる的な?もう既に十分悪者だから! 堕天使レベルだから! 君もそう思うでしょ?」
「え、あ、はい?」
ひとしきり叫んで、本当に来ないものなのかと彼に話しかけてみる。いや返事してるな。現実だな、これ。僕の死ぬ覚悟が無駄になったじゃないか。なんで許されてんだろ、僕。
いや、許されてるわけではないのかな。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
その一言で完全に我に返り、彼に目を向けた。うわぁ、めっちゃ困惑してる。君のそんな顔僕初めて見たよ。まぁ、目の前で知らん奴の頭潰れるよりはマシだから、まだ余裕があるんだろうけど。もしそうなってたら、恐怖に飲み込まれてただろうし。
「どうぞ!」
それでも、今まで人目を忍んでやっていたことを、ずっと誰かに見られていたんだ。警戒、していても不思議じゃない。でも、なんだろ?なんか、目がほんのちょっと、輝いているような気が……。
「俺は、もうすぐ死ぬんですか?」
あれ、もしかして余命宣告しに来ためちゃくちゃ優しい天使だと思われてる? 普通の天使だってそんなことしないのに。ていうか、したくてもできないし。できたらそれはまた規律違反だし。うわっ、規律だる。
「いや? 君がもうすぐ死ぬかなんて知らないよ。」
そうきっぱり言うと、彼は目を真ん丸にしてこっちを凝視した。おぅ、想像以上に面白い反応。
「え?っと、じゃあ、うん?」
あ、そういう意味で解釈しようとしてたのかな、僕のこと。僕がここに来た理由。いやー、まさかただの好奇心だなんて思わないだろうなぁ。どうしよう。教えちゃおうかな。教えないでこの彼の悩んでる感じを楽しもうかな? う〜む、悩みどころだ。
僕を観察するように見てくる彼に、バレないように視線を落とす。やっぱり面白い。眺めてるだけより、こっちのがずっと楽しい。姿を認識して貰うって、楽しいものだったんだなぁ。
「何にやけてんの?」
視線に気づいたらしい彼は、奇怪なものを見るような目でこちらを再度見上げてきた。
「いやぁべつにぃ。そっちだって笑ってんじゃん。」
彼は、さっきあんな顔してたとは思えないほど綺麗に笑ってる。いや、目はさっきと変わってないんだけれども!
そんなに、楽しいの?思わず口が緩んじゃうくらい面白いの?そんなに僕といるのは。
「楽しい?」
「めっちゃ楽しい。初めて、こんなに楽しいの。お前が天使なのかなんなのかわかんないけど、お前といるとそれだけで楽しい」
「初めて言われたよ、そんなこと」
僕が誰かとつるんだことなんて、なかったからだろうけどね。でも確かに、僕も彼との会話は、今までで一番楽しい。
もっと、話したい。
もう、天界になんて戻りたくない。
「ん?え?」
彼のその声に顔をあげる。その視線の先は僕自身で、視線がかち合う。
「あの、羽……」
「え、なにこれ?」
振り向いくと、僕の羽は形はそのままに真っ黒に染まっていた。まさかと思い、頭の上に浮かぶ輪っかを見上げると、それは純血のごとく朱くなっていた。
そんな僕を眺めていた彼は、口から溢れ出たように言った。
「悪魔みたい」
肩が跳ねかけた。びっくりしたのか。僕は。鼓動がうるさい。彼だって、なんとなくそう思ったに決まってる。そもそも彼は、悪魔もみたことがないはずだ。
僕は、平静を装って笑いながら返した。
「そう?なんで急に、うーん?」
2人で向き合って、一緒に首を傾げる。傍から見たら彼が1人で虚空に向かって話しかけて、1人で首を傾げてるのか。ちょっと面白いかも。
「さっき言ってた天界の人?が、お前に悪魔になれって言ってるとか?」
ちょっと笑いながら彼はそうつぶやく。冗談半分だったのだと思う。からかいも含んでいたのかもしれない。しかし、僕はその言葉にぎゅっと心臓を掴まれた気がして、彼を凝視した。
悪魔になりたい天使くん 降久 @huruhisa
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