第19話 巨大版豚ゴブリン?

「な、なんですの!? あの汚らわしい化け物は!!!」


 四階層の分かれ道。レティアの戦闘がしたいという意見と、どうにか皆を隠し部屋へと導きたい俺の思惑が重なり、俺たちはあえて魔物いる方の道を進んだ。

 一番先に魔物を目にするのはもちろんメイ令嬢。その彼女が魔物の姿を見て悲鳴を上げた。


「いきなり大声はやめろって。それでどんな魔物なんだよ」


 グレイが耳を軽く抑える素振りを見せる。


「巨大版豚ゴブリンですわ!!!」


「「「「巨大版、豚ゴブリン……?」」」」


 メイ令嬢から敵の情報を聞いた俺たちの頭にハテナが浮かぶ。

 巨大なゴブリンなら理解はできる。ホブゴブリンやそれに関係する種族だろう。

 ただ、豚ゴブリンってなんだ?

 豚みたいな色のゴブリン。豚みたいな体のゴブリン。豚みたいな顔のゴブリン。あとは――――。


「ブフオオオオオオォォ!!!」


 敵の正体を看破できず、全員が理解に苦しんでいる間に敵に俺たちの存在がバレてしまったようだ。ドスンドスンと重たい足音と共に何かがこちらへと走ってくる。


「オークか!」


 敵がある程度近づいてきたことでようやく正体が分かった。

 火魔術に照らされる顔は正しく豚。そして体はホブゴブリンのような豊満体だった。二足歩行で移動するところも含めると確かに豚ゴブリンと呼べなくはない。ただ、その表し方から敵がオークだと導き出すのは少々難題である。


 オークが叫びを上げながら猛突進してくるのが視界に入っている。

 真正面からあれを受けてしまってはひとたまりもない。


「全員、魔法で追撃だ!」


 俺の言葉に一早く反応したレティアが氷柱を複数生成する。

 それから少し遅れて俺とグレイ、メイ令嬢が火球を生み出した。


 猛スピードで迫るオーク目がけて氷柱が放たれる。

 オークもそれに気づいたが、視認してから避けるのでは間に合わない。額のど真ん中に深々と氷柱が刺さった。


 先頭のオークがその場で倒れる。

 後続はそれを目の当たりにして動揺が走ったようだ。

 明らかに進行スピードが落ちている。


 そこへ三人で生み出した火球が複数飛来し、豚の皮を焼く。

 野太い悲鳴がダンジョンにこだました――――。


「オークってけっこう強い魔物だって聞いてたけど、意外とどうにかなるもんだな」


 グレイが焼け爛れた豚の死骸を見下ろしながら言う。


「何を偉そうにしているのかしら? 本当に口の調子だけずっと良い男」


 メイ令嬢がその様子を見て呆れるように呟いた。


「なんだよ。実際に圧勝したんだから良いだろ?」

「それはあなたのおかげじゃないでしょう? レティアさんが戦闘の個体を一撃で仕留めたからそこだもの」

「ぐっ、それはそうだけど……」


 二人の言い合いをよそに俺は隠し部屋へのルートを改めて思い浮かべる。

 おそらく現在地から通路なりに進んだところにある落とし穴のような罠がある。それを飛び越えて進むのではなく、その側面の壁をブチ抜くと隠し部屋への通路が見つかるはずだ。あとは道なりに進むだけ。そうすればお目当ての物を手に入れることができる。


「リヒト様、ドロップアイテムがありましたよ」


 レティアから声をかけられて振り返ると、彼女は生肉を持っていた。


「これはオークの肉か?」

「そうみたいです。エドワードさんいわくとてもおいしいらしいので、回収しておきました!」


 オーク肉を見せてくれたレティアはとても良い笑顔をしていた。


「だったら、今日の夕食はそれにしようか」

「はい!」

「エドワード、いけるか?」

「もちろんです。レティア様、お肉をお預かりします」


 エドワードはレティアからオーク肉を引き取り、鞄の中に詰めた。


 それからしばらくの間魔物と遭遇することはなかった。

 目的地までの道のりもほとんど把握していたため、迷うことなく俺たちは進んだ。そして一時間ほどで目的の落とし穴の前までたどり着いたのだった。



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ゲームの世界に転生しました。主人公がシナリオ通りに行動すると世界が滅ぶので、モブの俺がどうにかしたいと思います。 三田白兎 @shirou_sanda

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