主催者のひとりごと

板野かも

匿名系イベントにおける得票機会の不均衡とその対処について(1)

 皆様こんにちは。はじめましての方ははじめまして。「匿名短編コンテスト」シリーズ主催の板野かもです。

 Xでも低浮上だったり急浮上だったりで周囲を困惑させがちな私ですが、このたび皆様のお陰をもちまして、1年半ぶりに匿名イベントを開催する運びとなりました。

 今回は「ミニ匿名コン・主催者の苦悩編」と題し、比較的少人数の参加者で軽めに遊びつつ、ついでに匿名イベントのルール改善議論も兼ねてしまおうという趣向です。


 それにあたり、初めての方もおられるので、まずは現状の匿名系イベントの課題について改めてお話ししておきます。

 以下、新匿名コン第2回「四季の宴」開催時に掲載した文章(https://kakuyomu.jp/works/16817139556846164332/episodes/16817139556846178684)と一部重複するため、ご存知の方は適宜読み飛ばしてください。


 そもそも「匿名短編コンテスト(匿名コン)」は、芳賀概夢氏の「ギャグ・コメディー掌編小説コンテスト」(2018)を発端とし、板野自身の開催を含むいくつかの同種イベントの実践例を踏まえて、2019年に板野がカクヨム運営との調整を経て定式化したものです。

 その名の通り、主催者のカクヨムページにて匿名形式で応募作を一斉公開し、応援ハート及びコメントの数で順位を付けるものであり、作者の知名度や既存の人間関係にとらわれない公平な評価を売りとしています。第4回「光VS闇編」からは「熱かった賞」「切なかった賞」などの読者賞や、参加者用のグループDMも導入し、今に至る匿名コンの形が完成しました。

 その後、第5回までの開催を経て、板野の旧カクヨムアカウント退会により一度は断絶するものの、2022年に「新匿名短編コンテスト」として仕切り直し、2023年までに大小のスピンオフを含めて都合4度のイベントを開催しています。

 また、カクヨムと関係はありませんが、同時期の板野主催のイベントとして「匿名超掌編コンテスト」を思い出される方も多いでしょう。これもまた匿名系イベントの一つとして、匿名コンと本質・傾向を同じくするものでした。


 さて、これらの匿名系イベントに根強く存在する課題として、「応募作の掲載順による得点機会の圧倒的な不均衡」があります。

 板野は主催者として「参加者数こそ正義」「盛り上がりこそ正義」という信念を有しているため、特に匿名コン本編においては、作者・読者としての参加のハードルをなるべく下げ、少しでも多くの方に参加してもらえるように制度設計を行っています。即ち、参加作者に全作品の完読義務や投票義務はなく、逆に投票数の制限もなく、また一般読者からの投票もフルオープンとしています。

 この形式から必然的に起こる事象として、序盤の作品にPVが集中し、掲載順が後半になるにつれてPVが漸減するという傾向が明確に出ます。投票傾向もこれと連動しており、常連の参加者であっても、前半の作品ほど積極的に投票を行い、後半になるほど読み回りの熱量が低減するというケースは珍しくありません。加えて、通りすがりの読者が序盤の数作品にのみ目を通して応援を押したきり、それ以降の作品は読まずに去ってしまうということも頻繁にあります。

 かくして、序盤の作品群は、言葉を選ばず言えば、となってしまうのです。


 もとより、行動・執筆の早い作者が多少の有利を得るのは妥当であるとの意見もありますが、過去の匿名コンにおける序盤掲載作品の優位性は、「多少」にとどまるものでは到底ありませんでした。

 参考までに、新匿名コン第1回「再会編」の応募作を、(A)初日掲載分の37作、(B)それから第1回中間発表までの30作、(C)第2回中間発表までの41作、(D)それ以降の68作に分け、各々の得点の平均値/最大値/中央値/最小値を見てみると、


(A)35.30/70/33/16

(B)27.33/46/26/15

(C)26.02/49/26/13

(D)21.85/39/22/7


 となっており、一回り以上の差が存在していることが見て取れます。これは作品自体の魅力によっては埋めがたい圧倒的な格差であり、現に当該イベントの最終順位においては、上位16作の内、実に13作を初日掲載分の作品が占めていました。掲載順が半分より後だった作品は、ただの1作も上位にランクインできていません。ありていに言って、のです。


 この問題は旧匿名コンの頃から明らかになっていたため、実得点とは別に、得点機会の不均衡を数学的処理で均した「参考スコア」(解説:https://kakuyomu.jp/users/itano_or_banno/news/16816927863348024911)を公表するなど、可能な限りの対処を試みてきました。しかし、参考スコアはあくまで「参考」に過ぎず、実順位の算出方法を改善しないことには真の解決とはなりません。


 誤解のないように述べておくと、少なくとも「再会編」においては、上位入賞作にそれに釣り合う魅力がなかったということではありません。概ねどれも実際に多くの読者から高い評価を得た作品であり、入賞自体に疑問はないでしょう。しかし、一方で、後発組の中にも、「序盤に掲載されていたら上位争いに食い込めただろう」と思える作品が多かったことは事実であり、それらの作品に十分光を当てられなかったことは主催者として大きな反省点です。

 また、旧匿名コンにおいても、1位入賞作はいずれも参加者・読者にとって納得の結果だったと言えますが、2~7位あたりにまで目を向けると、序盤掲載の地の利を得て走りきったに過ぎない作品が幾分か紛れ込んでいたことは否定しがたく、大いに興を削ぐ結果となっていました。

 こうしたゲームバランスのもとでは、とにかく早くに作品を書いて掲載序盤に送り込むことが「必勝法」となってしまい、それは匿名コンが本来目指すべき形とは大きく異なります。序盤組も後発組も公平に競争を楽しめる仕組みの策定が、主催者の責務であり、継続開催にあたっての必須条件となりました。(続く)

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