瞼の赤 『短歌の秋』投稿作品

蜂蜜ひみつ

さよならは 文字でないだけ ましなのか 瞼の赤を ぎゅっと塗り替え




さよならは

文字でないだけ

ましなのか

まぶたの赤を

ぎゅっと塗り替え





𓂃 ˚‧𓂃 𓂃 ˚‧𓂃 𓂃 ˚‧𓂃 𓂃 ˚‧𓂃 𓂃




さよならは

電話で告げられた


文字でないだけましなのか


別れの記憶が影を堕とすから

再びそこに立ち寄ることは不可能

禁忌地区になってしまう場所たち


招いたことは無かった

私の部屋


ここで電話を受けた今

自分の部屋に

別れの匂いが染み付く

なんて

最低



あなたの髪が 

柔らかな私のお腹を

さわさわと

くすぐる感触が好きだった

閉じた瞳の裏

私の瞼が

赤く染まっていくの


太陽が眩しくて

目をつぶってもなお放たれる

鮮やかな色彩

透きとおる命が

喜び脈打つように



嫌だわ



アイボリーの壁も

マホガニーの机も

モリスのカーテンも

夏を過ごしたワンピースも


息を肺に溜め込む間もなく

濃紺の濁流が流れ込む

ぼやけていく

あっという間に

光が届かない海の底

沈んでしまう


塩水が目にみて

ぎゅっと

閉じる強く強く


あなたの赤を塗り替える



暗闇の中

はぜる眼閃がんせん

見たくないのに見える

なんて

思い出と同じ


勝手よ




この日の色も

記憶の色も

いっしょくたにして


私は独り


瞼の赤を塗り替える


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

瞼の赤 『短歌の秋』投稿作品 蜂蜜ひみつ @ayaaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ