この子(ばくだん)を預かってください💣️

ちびまるフォイ

見えない爆弾

『専門家によると、海底に埋まった火山がーー』


「はあ、テレビもつまらないなぁ」


休日は憂鬱。

なにもやることがない。

暇つぶしにテレビを点けてみたがすぐに消してしまう。


そのときだった。


「す、すみません!!」


玄関から声がした。


「……誰ですか? 知り合いじゃないですよね?」


「これを! これを預かってください!」


「これって……ええ!?」


なかば押し付けるように渡されたのは

丸く黒光りする爆弾だった。


「爆発すると、周囲1kmが吹っ飛びます」


「えええ!? ふざけんな! こんなもの預かれるかぁ!」


「でも、1時間毎に1万円がもらえます」




「続けて」




「爆発するのは2040年なのですぐじゃないです」

「ほう」


「爆弾は特殊コーティングされているので、

 ちょっとやそっとの衝撃では爆発しません」


「なるほど。安全なわけだ」


「というわけで爆弾を預かってください」


「もちろんだとも!! 誰にも渡さないさ!!」


こうして家にはじめて爆弾を招き入れることとなった。

爆弾には爆発までのタイマーと、お金の引き出し口がある。


1時間たつと「チーン」となって、1万円が出てくる。


「わっはっは! まさに金のなる木じゃないか!!」


家に爆弾があるという違和感さえ気にしなければ、

これほど美味しい話はないだろう。暇を持て余すものだ。



爆弾と同居してから数日が過ぎた。



「チーン」


1時間が経過し1万円が出てきた。


もうお金も十分使い切れないほど手に入り、

最初の頃のような嬉しさはもうない。


あるのは漠然とした不安だった。


「……爆発しないよな」


爆弾のタイマーは2040年までのカウントダウンを示している。

まだまだ時間はある。


でも、もし爆発したら。


そんな漠然とした不安が常につきまとい続けている。

最近はどんどん眠りも浅くなっていく。


「いかんいかん。頭が爆弾のことばかりになっている。

 ちょっとリフレッシュしていこう。このままじゃ病んじまう」


家の爆弾と常に生活していると意識せざるを得ない。

毎日暗いニュースを見て気分が沈むのに似ている。


気分転換にちょっと散歩をした帰りだった。

家につくとそこにあるはずの爆弾がなくなっていた。


「ば、爆弾が!!」


窓ガラスは外から割られている。

散歩で家を空けているときに泥棒がきたのだろう。


そして1時間に1万円を生成する爆弾を持っていってしまった。


「い、いや……でもこれはむしろ好都合か?

 お金は十分手に入ったし、最近は爆弾のせいで不健康だ。

 どっかの誰かが持ち去ってくれたなら手間がはぶけたかも」


最近では最初に爆弾を押し付けた男に感情移入できるほど、

爆弾との共同生活に限界を感じていたのでせいせいした。


有り余る財産とともに悠々自適な暮らしができるのかもしれない。


どっかの誰かが爆弾を預かってくれたから。



どっかの誰かが。



「ほ……本当に大丈夫か!? 怖くなってきた!」


はたして爆弾を盗んだ泥棒はちゃんと取り扱い方法を知っているのか。

欲をかいて爆弾を解体しようとかしてないか。


まかりまちがって爆発でもしたらどうなる。


今までは爆弾が手元にあったから、

少なくとも2040年までには爆発しないという安心があった。


しかし自分の手を離れた今はどうか。

いつどこで爆発するかわからない状態になっちゃったんじゃないか。


「こうしちゃいられない!! はやく爆弾を回収しないと!!」


見えていた不安が、見えない不安になった。

それだけで不安度合いはうなぎのぼり。


警察に駆け込んでも相手にはされなかった。


「だから! さっきから言ってるでしょう!?

 爆弾を盗まれたから、取り返さなくちゃいけないんです!」


「そんな危険物をなんで手元に置きたいんだ!?」


「危ないからに決まってるでしょう!!」


「!?!?」


いくら事情を話しても動いてくれない。

結局は自分で犯人を見つけ出すこととなった。


「なんだぁてめぇは!!」


「その爆弾の持ち主だ!! 爆弾を返してもらう!」


「この爆弾にゃまだまだ金を出してもらわにゃならん。

 今はボスがこの爆弾を解析して、もっと金を出せるようにしてるところだ」


「うおおおおい!! 変なことするなよ!! 半径1kmがふっとぶぞ!?」


「知るかそんなこと」


「周辺には小学校も幼稚園もあるのに……!!

 この外道が!! 爆弾は俺がもらいうける!!」


爆弾を盗んだ泥棒グループとの正面衝突がはじまった。

なんやかんやあって全員をねじふせた。


「もう勘弁してくれ……爆弾は返す……」


「いいか、二度と爆弾を盗もうだなんて思うな。

 この爆弾は最後まで俺のものなんだ!」


「あんたイカれてるよ……」


紆余曲折をへて、ついに爆弾は手元に戻ってきた。

爆発するかという不安は再燃したものの、

いつ爆発するかわからない不安は払拭できた。


「ああ、爆弾が見えている。これだけでずいぶんと安心するなぁ」


朝起きて爆弾のタイマーが見えている。

それだけでまだ爆発しないという安心感があった。


今日もよく眠れるだろう。

爆発するのは2040年なのだから。






翌日。


ニュースはずっと同じ内容を報道していた。



『昨日の夜、海底火山が急激に活動し、

 〇〇地区の周囲1kmをふっとばしました。

 すでに跡形もなく街は消えてしまっています。

 

 なお、現場を見ていた人によると

 海底火山の噴火後でしょうか。

 

 爆弾の爆発が同規模で見えたとの情報もありますが、

 この閑静な住宅街に爆弾などは考えられず調査を進めています』

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