最終話:さよならは二度と言わない。
ウィリエルは裕太が完全に立ち直って心のどこにも過去の悲しみがなくなったら
彼と別れて天界へ帰るつもりだった・・・いや帰らないといけないのだ。
天使は天使、下界に降りることはあっても己の命を全うするまで下界で暮らす
ことはできない。
ある日のこと、ウィリエルは決心して、これからの自分と裕太との関係と
自分の使命を裕太に伝えた。
それを聞いた裕太・・・ショックのあまりそこにヘタレ込んだ。
「天界へ帰るの?・・・ずっといてくれるって思ってた」
「ごめんね・・・私もずっと裕太といたいって思うけど、それは許されないの」
「僕はまた、愛する人を失うことになるのか?」
「そんなの意味ないじゃん・・・ウィリエルは僕に一時の幸せと喜びを与えた
だけじゃん・・・そんなの残酷だよ」
「それはほんとにごめん・・・そこまで深く考えてなかったの、ごめん」
「裕太さえ喜んでくれたらと思って・・・」
「私の心はこれからも裕太と一緒だよ」
「だけどもし私が裕太と暮らしたいって願っても神様は許してくれないよ、
それを許したら天界の秩序が保てなくなるから・・・きっと無理」
「もし君が神様の言うことを聞かずに無理にここに残ったら?」
「できるならそうしたいけど、二度と裕太とは会えなくなるから・・・」
「分かるでしょ?言ってる意味」
「分かるよ・・・そんなこと僕だって望まない」
「それが君の定めなら、いくら僕が引き止めたってしかたないんだ」
「そうだね・・・」
「これでも僕、ずいぶん成長したんだよ、君のおかげで・・・だから元カノに
裏切られた時みたいにパニクったりしないよ」
「僕がわがままを言うと君を傷つけるって分かってるから・・・」
「ごめんね裕太・・・ただ私心配なの?」
「私がいなくなったら、また裕太がバカなことしないかって・・・」
「大丈夫だよ・・・ほんと言うとさ、元カノに裏切られた時より今のほうが
ショックで辛くて悲しいんだ・・・だけど耐えられれる・・・それはウィリエルが
僕を愛してくれてるから・・・あの時とは違う・・・今は君の愛が僕を支えてくれてる」
「だから僕は生きていけるんだよ、ウィリエル、心配いらないよ」
「君に負担はかけたくない・・・だから笑ってさよならしよう・・・」
「いいの・・・ほんとにいいの?」
「私が天界へ帰っても裕太は生きて行けるのね」
「ああ、大丈夫だよ・・・きっとウィリエルを思い出して泣くだろうけどね」
「でも、気にしないで・・・僕と同じように苦しんでる誰かを救ってあげて」
「分かった・・・辛いけどしかたないね」
「じゃ〜私、行くね・・・裕太、私に笑って言えるさよならを教えて」
「そんなの無理だよ・・・」
ウィリエルは後ろ髪引かれる思いで裕太の部屋から消えていった。
「ウィリエル・・・」
「終わっちゃった・・・なにもかも夢だったんだ」
「ウィリエルとの出会いは、きっとおまえは悲しみになんか囚われていないで
ちゃんと生きて行けって神様からの啓示だったんだな」
ひとりになった裕太は、ウィリエルとの暮らした思い出を糧に仕事に
没頭した。
裕太は元カノとの別れやウィリエルとの別れで強くなっていた。
そして時々、ウィリエルと出会ったあの
ウィリエルのことは、絶対忘れないと思ってたから・・・。
ウィリエルがいなくなって一ヶ月・・・裕太はま
そして欄干にもたれて橋の下を通り過ぎていく電車を見ていた。
「僕はここから飛び降りようとしてなんだな」
そう思って裕太は苦笑いした。
「なにが可笑しいの?・・・もうそこからダイブしたりしないよね裕太」
その声に裕太は振り返った。
「ウィリエル?・・・」
「どうして?・・・どうして君がここにいるの?僕はもう死んだりしないよ」
「分かってる・・・私、裕太の元に戻ってきちゃった」
「戻ってきちゃったって?・・・それって一時的に僕に会いに来たってこと?」
「違うよ・・・神様がね、私と裕太の一部始終を見てたんだって・・・でね」
「特例だって・・・私が下界に降りることを許してくれたの」
「うそ・・・それって・・・まじで?なんて素敵なサプライズなんだ」
そう言うと裕太はウィリエルに駆け寄って抱きしめた。
「裕太・・・苦しいってば」
「あ、ごめん・・・お帰りウィリエル」
「ただいま裕太・・・裕太と私エッチしないまま天界に帰れないからね?」
「二度と離さないよ・・・神様がやっぱり帰って来いって言っても・・・」
「裕太・・・私、さよならはもう二度と言わないから・・・」
おしまい。
さよならを教えて。(もうひとつの物語) 猫野 尻尾 @amanotenshi
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