第5話:裕太の思いとウィリエルの思い。

天使ウィリエルと裕太とのぎこちない同棲がはじまった。


「裕太・・・聞いていい?」


「なに?ウィリエル」


「今は?死にたいって思わない?」


「そうだね元カノのことはまだ忘れられないけど、いつまでも面影を負ってても

しょうがないからね・・・それに僕は彼女に裏切られてるし・・・」


「ウィリエルの言う通りなんだ」

「僕は自分でも気づかないうちに悲しみに囚われて自分を見失ってたんだね」


「そうだね、誰でも自分を見失うってことあるんだよ」

「それに気づかせてくれる人に出会えるって大事なんだよ」


「僕にととってはそれがウィリエルだったんだ」

「まだ完璧じゃないけど、これから少しづつ本来の僕に戻っていくよ」


「うん・・・いいと思う」

「私になんでも言ってね、どんなに些細なことでもいいから」


「毎日あった出来事や思ったことは全部ウィリエルに話すよ」


「そう言うのをね、懺悔って言って誰かに悩みや思い話せば楽になるの・・・

悲しいことや辛いことは心の中に留めてちゃいけないんだよ」


「気持ちも態度も表に外に出すって大事なことなんだねウィリエル」


「そうだよ裕太・・・いい傾向」


それからもウィリエルは裕太のために献身的に家事をこなした。

そして何かにつけて裕太に対してスキンシップで応えてくれた。


裕太からしてみれば女性となんか抱き合ったり触れ合ったりしたことないから

彼女といることはとても新鮮なことだった。

だから裕太がウィリエルを好きになるのに愛するのに時間はかからなかった。


仕事も以前に比べて頑張れたし充実してたし、元カノとも時々顔を合わすことも

あったけど、それだってもう平気になっていった。

それもこれもウィリエルがいてくれるおかげ。


裕太はウィリエルさえいてくれたら、人間との恋愛なんかなくていいと思った。

天使とセックスなんかできるのかどうか分からないけど、もしできるなら

ウィリエルと結ばれたいと思ってた。

でも、それより今はこのままずっと一緒にいて・・・そしていつかウィリエルと

結婚できたらとまで裕太は思いはじめていた。


もちろん裕太の想い以上にウィリエルも裕太のことを本気で愛していた。

だけど本気で裕太のことを愛すれば愛するほど、彼が遠い存在に思えて来る。


私と裕太は天使と人間・・・体の交わりはあったとしても心が結ばれることは

許されない・・・私はいずれは天界へ帰る身。


そして裕太と同じような境遇の人をまた探して命を助ける使命が待ってる。

それが私に与えられた使命。


裕太とはいつまでも一緒にはなれない。

ただ、ひとつ心配なことは私がいなくなったあと、裕太また悲しみにくれて、

あの跨線橋こせんきょうから飛び降りるかもしれない。

もしそんなことになったら私はなんのために裕太の命を救ったのか分からなく

なっちゃう。


裕太のことは心配さけど、裕太の心から悲しみが払拭されたら、私は天界へ

帰らなきゃ。


そんなことなんか知らない裕太、ルンルンで仕事から帰ってきた。


つづく。



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