第3話

桜が少し散り始めた4月、入学式に私はいた。

中学入学とは違うコロナも収まり、中学で戦った悪魔もいない、自分に勢いを感じた。人見知りな自分を隠して、何とか周りに馴染もうとした。またちょうど担任が吹奏楽部の顧問でもあり、そこには中学時代、返事を教えてくれていた古井先輩がいた。軽音楽部に入る予定だったがもう一度楽器をやりたいと思い、吹奏楽部への入部を決めた。しかし同じ高校に支えてくれた人は誰一人としていない。隼人のような存在もいない。私の勢いはただの傲慢であり、怠惰であった。まさしく打ちのめされたようだった。

悩みを話す人がいない、話せない。今までが恵まれていたことを感じさせられた。

悪魔はすきを見ていただけだった。5月に入るとまた吐き気が私を襲う。近くの病院へ言ってもやはり何も変わらない。そんな時、病院の先生から心療内科への受診を進められた。

希望が見いだせずにいる中、心療内科に電話しても、「1年後になる」言われた。何件もかけていると唯一、2週間後に見てくれる病院があった。中3のときからこれは精神的な病気なのだろうと薄々思っていたからやっと正体がわかると思い、希望が見いだせると感じた。

診断は心身症であった。薬が処方され、やっと良くなるそう思っていた。

しかし薬は緊張は抑えてくれるが吐き気は良くならず、副作用の眠気と戦う日々であった。

そんな日々の中で一つ楽しみにしていたことがあった。それはSAINARIのライブに行くことであった。SAINARIはたまに聞く程度であったが、一度はライブに行ってみたいと思っていた。それが人生初めてのライブであった。いつも通り体調は悪かったが、その時は気持ちが晴れ晴れしていた。会場に到着し、グッズを買って、ライブのシャツに着替えた。

そしてライブが始まると体全身に音の振動が響き、言葉が出ないほどに感動した。ナニカにとらわれないSAINARIのメンバーを見ていると、なぜか今の自分を肯定してくれているように感じた。圧倒され続けていたままライブは終わった。帰り道、今までにはない初めての感覚を味わった。そのライブは私に生きていていいと肯定してくれるようなものであった。

夢のような時間が終わって、SAINARIの楽曲により引き込まれていった。

だが学校に終わりはなかった。苦しい日々は続き、薬も合わない、真っ暗な闇にまた放り出されたように感じた。結局部活のコンクールは出場を辞退し、あまり部活にいけない日も続いた。気づけば一学期は終わりを迎えようとしていた。病院では夏休みの間は、部活を休み、休養してくださいと言われた。その言葉を求めているような、いないような、そんな気持であった。夏休み中、大分県の親戚に会いに行き、そこでゆっくりと休んだ。大分にいると心が落ち着く、毎年帰省するが今年はより一層そのように感じた。大分、そしてばあばとじいじと話す瞬間はすべてを忘れられた。

しかし、あっという間に大分への帰省が終わり、家に帰ると今まで以上に感情は落ち込み、大分では隠れていた悪魔も脅威を振るった。薬も効いているように感じたのに、いきなりまた効かなくなってしまった。吐き気よりも気持ちの落ち込みが激しく、夏休みが終わることが怖かった。

まだ熱い8月の終わり、気持ちをふり絞って学校に通った。始まってみると以外にそうでもない。そう感じた。だがその週の土曜、部活に行くと初めてといっていいほどの恐怖に襲われ、めまいや吐き気、呼吸が乱れ、薬も頓服薬を複数回飲んだ。なんとか家に帰ろうと思い、その場を早退し、お母さんに電話をかけた。「一回ゆっくり休んだほうがいい。コンビニで休みな」パニック状態の私にそう声をかけた。学校の近くのコンビニでお茶を買い、椅子に座って休むと、少しづつ悪魔は力を弱めた。最後の力をふり絞って電車に乗った。いつもは電車でSAINARIの音楽を聞くが音楽が聞けず、SAINARIのラジオを流すと、心が少し落ち着き、無事にみんなが出かけて静かな家に帰ることができた。それからというもの部活というものがより怖く「またあの時のことがあったら」と感じ、部活にどんどんいけない日々が連なっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私が私を失ったのはいつからだろう @tuzuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画