俺だってヒーローなんだけど

くま太郎

第1話

眠い目をこすりながら、教室のドアを開ける。同時に黄色い歓声が耳に届く。

 でも、残念ながら俺に対しての歓声ではない。

 自分の事は自分が一番分かっている。

俺は学校で人気がないのだ。特に女子には、人気のにの字もない


大酉おおとり、今日も眠そうだな。またゲームか?」

 ゲーム……しばらくやれてないんだよね。たまにはゆっくりゲームでもする時間が欲しいです。


「まあな。随分と騒がしいけど、何かあったのか?」

 事件とかじゃないと良いんだけど……事件で黄色い歓声は上がらないか。事件で耳にするのは、悲痛な叫ぶ声か悲しい泣き声だけ。

 黄色い歓声には縁はないけど、叫び声と泣き声は良く耳にしている。


「今度、クラスにヒーローが転校してくるみたいだぜ。しかもバフ系のハーレムヒーローだってさ。随分なイケメンらしく、朝か女子は大騒ぎって訳さ」

 まじで?俺何も聞いていないんだけど。

(報告がないって事はてい級か。それなら俺から接触しなくても大丈夫だな)

 今から四十年前、異世界から侵略者が攻めてきた。最初は劣勢だったけど、ヒーローが現れ、侵略者を撃退……したのは良かったけど、それから様々な侵略者や悪の組織が現れる様になったのだ。

 そしてそれに対応するかの様に様々なヒーローも現れる様になった。

 戦隊系、魔法少女系、変身系、バフ系。


「まあ、元からない人気だ。ヒーローに奪われても変わりないだろ?」

 ましや丁級を相手する気はない。

 ヒーローといえ人間。飯も食わなきゃいけなし、睡眠も必要。だから、政府はヒーローを警視庁に所属させた。

 そしてヒーローを資格化させたのだ。

国内全域が活動範囲の甲級、甲級は幹部級の敵とも一人で戦える実力者だけがなれる。主な任務は他のヒーローの援護が上級の怪人や魔物の討伐。またはアジトへの襲撃。

乙級の活動範囲は県単位。中級の怪人や魔物と一人で戦える者。主な任務は戦闘と要人の警護。

 平級は市単位。初級の怪人や魔物にチームで勝てる者。主な任務は怪人や魔物が現われた時の一時対応。

 丁級は町村単位で戦闘員に一人で勝てる事が条件。主な任務はパトロール。

 ……女子の皆様、転校生ヒーローに大騒ぎしているけど、ここにもヒーローがいるんだぞ。

 甲二級ヒーロー・戦隊系・元幻獣戦隊クリプテッドファイブのコカトイエローこと大酉吾郎が。

 ちなみに昨日は夜間待機で寝ていません。


 確かに転校生はイケメンだった。そしてバフ系の為か、女子も一緒に転校してきたのだ。

 それでも女子の皆さんは大騒ぎ……悔しくなんてないんだからね。俺だってヒーローの時は人気者なんだぞ。


「僕の名前は獅子王ししおうひかる。丁十級ヒーロー、ハーモニーオーケストラのコンダクターをしている」

 バフ系ヒーローは割と新しめのヒーローだ。異性とパスを繋ぎ、パワーアップさせる事が出来る。

 名前からするとハーモニーオーケストラは音楽由来のヒーローなんだと思う。

(いつも思うけど、顔とヒーロー名晒して大丈夫なのかね)

 俺は変身するとバトルスーツに身を包むから、顔バレする事はない。正体を知っているのは、極一部の人間だけ。

 正体がバレたたら、ペナルティーがある訳じゃない。自分や周りの人の身安全を守る為だ。

 ヒーローは活躍する程、敵から恨まれる。正体がバレるって事は、リスクも増加するっのだ。


「ゴローも光君達の歓迎会に行くだろ?」

 その声を聞いただけで、胸がときめく。なぜなら声の主は俺が片想いしている相手。

 鷹空たかぞらつばさ。バスケ部所属の元気系少女。明るい性格で、男女分け隔てなく接してくれる。

 そうすると勘違いする奴が出る訳だ。俺みたいに……。


「お、俺も行って良いの?」

 まさか鷹空さん自ら誘ってくれるなんて……真面目にヒーローしてよかった。


「当たり前じゃん。クラスメイトなんだし」

 ですよねー。危うく勘違いするとこだった。


「もちろん、行くよ……ちょっと、待って」

 行くよと言おうとした瞬間、スマホが鳴った。しかも、この音は緊急呼び出し音。


『S市に複数の怪人出現。魔法少女バーディアンのオウルプリーストが対応に向かっている。至急、救護に迎え』

S市って、地元じゃん。だから、俺に要請が来たのね。


「ごめん。急用が出来た。今度機会があったら、また誘ってね」

 その機会は、もう来ないと思うけど。

 皆……鷹空さんに頭を下げて教室を飛び出す。


「残念だな……皆、ごめん。僕も行けなくなった」

 ……教室から失望の声が聞えて来た。俺の時は誰も残念がらなかったのに。


 転移装置をも使って現場に急行する。

(現われたのは初級の怪人が三体……どう足掻いても歓迎会には間に合わないか)

 討伐には時間は掛からないと思う。でも、報告書や何やらで確実に二時間はかかる。


「救護に来たコカトイエローだ。状況を教えてくれ」

 現場には既に四人の魔法少女がいた。そのうちの一人で、水色の服を着た少女に声を掛ける。

(魔法少女の認識阻害魔法って凄いな。この距離でも顔が分からないんだもんな)

 魔法少女は十代の女性が多い為か、盗撮やストーカー系の被害が問題になった。そこで認識阻害魔法が開発され、顔が分からないどころか写真にも写らなくなったのだ。


「コカトイエロー?甲二の……でも、声聞いた事ある気が」

 ヒーロー関係では有名なんだよね。リアルのギャップが凄すぎます。



「ああ、元クリプテッドファイブのコカトイエローだ」

 俺がクリプテッドファイブになったのは小四の時。無事にボスを倒せたけど、レッドの兄ちゃんとピンクの姉ちゃんが結婚。ブラックさんとホワイトさんもデキ婚。結果、クリプテッドファイブは解散。俺だけになった。だから元なのだ。


「すげ……僕はバーディアンのホークソルジャー。僕等が敵対しているポーチャーの怪人が三体も出たんだ」

 密猟者ポーチャーか。あの感じは初級だな。


「俺が二体やる。君等は残りに集中してくれ」

 俺一人で三体倒せるが、それだとバーディアンの面子が潰れれてしまう。ヒーローを七年もしていると、その辺の配慮も上手くなるのだ。


「分かった!皆、行くぞ」

 さて、ささやかな幸せも潰した報いを受けてもらおう。


「喰らえ、テイルロッド」

 俺のメインウエポンはテイルロッド。尻尾を根に変化させるのだ。


「嘘?もう二体倒したの?」

 ヒーロー同士交流を深めたいと思ったら、二件の救援要請。しかも県外です。


 無事にポーチャーを倒したバーディアン達は、元の姿に戻って反省会を開いていた。


「話には聞いていましたが、流石は甲二級ですね」

 そう言ったのはオウルプリーストこと副楼ふくろう知恵。


「でも、あの声どっかで聞いた事あるんだよね。なんかゴローと似ている気がするんだよな」

 ホークソルジャーの正体は吾郎のクラスメイトにして意中の人鷹空翼だったのだ。


「ゴロー君って翼と同じクラスで、翼が大好きな人だよね」

 ニヤリと笑ったのがスワンウイッチこと白鳥魔美。


「だ、誰かに聞かれたたら、どうするのさ!せっかく勇気だして誘ったにのにー」

 少女達の黄色い声が喫茶店に響いていた。

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