ぼやけた温もりの中で

満月 ぽこ

第1話

「将ちゃん、ばあちゃんもぼんやりとしか見えてないけどお風呂は1人で入れるし、料理だって作れるのよ。だから翔ちゃんも何だってできるようになるの。」

 肌色の塊が僕の体を包んだ。ばあちゃんの手の温もりが両頬から伝わってくる。僕の思い出せる最初の記憶だ。

 小さい頃の検診で弱視と判定された。その日は父が僕を膝の上でより強く抱きしめ、医師の説明を聞いていた。空調のせいか自分の体も父の体も冷えていて、妙に息苦しくて、これから何か悪いことしか起こらないような気がした。自分が家に帰り部屋の隅でうずくまっている僕をばあちゃんは励ましてくれた。優しくて、暖かい記憶。こんな時でさえ、しっかりと思い出せる。


 外から誰かの呻き声が聞こえる。窓はガムテープで塞いでいるから開けられないが、きっと血の匂いがするのだろう。

 「今度は僕が守る番だから…。ここで待っててね。」

 暗い部屋の中でベットをみる。掛け布団が上下していた。ばあちゃんは確かに寝ている。部屋の棚に手を手を伸ばす。水、カンパン、缶詰に簡易トイレ。1人だったらしばらくは生き残れる分の食糧と生活用品がある。不足はないか入念に確認する。

 確認を終え、ドアに手をかける。もうここには戻れないかもしれない。二度と会えなくなるかもしれない。けど、そんなこと考えている時間はない。自分を鼓舞して、手に力を入れる。

 「行ってきます」

ベットの方は見ないようにドアを素早く閉めた。

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ぼやけた温もりの中で 満月 ぽこ @antares08

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