決起
「なるほどなるほど。ロイネさんは先日から怪しげな組織に狙われている、と。そしてきっかけは襲われた市民を助けたから……」
シンファーは神妙な顔をする。
「何か心当たりは?」
「実は……私もその組織に襲われたことがあるんですよ」
「えっ!?」
「本当かい?」
「…………」
フィアーネは驚き、傍聴していたアイリスも思わず声を出す。ロイネは相変わらず無言だが、興味深そうな視線を彼に向けていた。
「そうですね、あれは……一ヶ月前のこと。学園を出て帰宅の途についていた時、同じ連中に背後から襲われました。その時は幸い、気付いていたのでなんとかなりましたが実に危ないところでした。その後生徒会にて報告をしたのですが、生徒会長や役員、教員の中でも襲われた人がちらほらいたようでした」
「そうだったとは……」
「現在、街で調査、また我々の方でも調査をしていますが、まだ詳しいことは分かっていません。身の安全に関係することなので早急に解決したい事柄なのですが……はっきり言って、私たちも困っていますね」
思わず全員の頭が下がった。
ライルとしては精鋭揃いの生徒会に聞けば何か有益な情報がもらえると思っていたのだが、まさか徒労に終わるとは想定していなかった。
しかし生徒会はおろか、この街すら欺けるあの連中は何者なのだろうか。そして一体何が目的なのだろうか。
「ちなみに部長は大丈夫でしたか?」
「大丈夫どころか初めて聞いたぞそんな話」
「そうですか。狙われてないだけ何よりですね」
「とりあえず連中の正体が分からない以上、正体を探るような議論は無意味ですね。それよりもなぜ襲ったのか、何か襲われた人の特徴を考えたほうがいいかもしれません」
「副会長、襲われた人の共通点は何かあるのかい?」
「そうですね……」
その発言を受けてライルも考えてみる。
まず襲われた人の共通点としてロイネは除外する。彼女は初めから襲われたのではなく、襲われていた市民を守ったゆえに襲われるようになったのだから。
となると一つ疑問が生まれてくる。
「なぁロイネ」
「なぁに?」
「お前は誰を守ったんだ?金持ちだったりしたか?」
「う〜〜ん、確かあそこは高級住宅街だった気がする。だからお金持ちか権力があった人かも……」
「なるほど、ありがとうな」
そう、ロイネが助けた一般市民も計算に入れなければならない。そうしなければ共通点は見出せないのだから。
これを踏まえると、共通点は富裕層か政治的権力、影響力を持っていた人物となるのだろうか。
しかしそれだと生徒会の役員が狙われた理由が気になってくる。彼らはまだ学生だ。親がそのような力を持っていたとしても、子供はまだ大した力を持っていないはずだ。
それとも無差別に襲撃しているのだけなのか。
「襲われた人は生徒会長、副会長である私、生徒会役員、教員、ロイネさんが言うにはお金を持っていそうな一般市民とのこと。これらの共通点はそうですね……ハッキリ言ってありませんが、彼らには影響力、財力、物理的な力のどれか一つは少なくとも持っている」
「生徒会長は確か良い生まれだったよな?すると三つ持っていると考えておかしくない。副会長は財力と力か?」
「いえいえ、僕は力だけですよ」
「そうか。じゃあ力。教員は影響力を除いた二つか三つ。一般市民は力を除いた二つとなるか。だとするならば少し気になることが一つ。会長、副会長は行事で公の場に出てるから仕方がないにしろ、なぜ役員たちも狙われている?なぜ連中は生徒会役員のメンバーを事細かく知っているのだ?」
………………。
思わず全員が沈黙する。それはライルも気になっていた事柄だった。
そう、おかしいのだ。部外者が生徒会役員のメンバーを把握しているなど。もし把握していなかったとしてもなぜ物理的に力を持っている生徒たちがわかるのだ。彼らの実力も、成績も見たことがないはずなのに。
嫌な予感が浮かび上がる。それはライルだけでなくこの場にいた全員が気付いたようだった。
やがて意を決したようにロイネが平坦な声で、
「この学園に裏切り者がいる」
そう言った。
………………。
「あまり考えたくありませんが、そうとしか思えませんね。それか潜入工作しているか」
もしそうだったら最悪だ。
「生徒会にも裏切り者がいるんですか?」
フィアーネがそう尋ねる。
「う〜ん、どうでしょう……。それよりは教員の方があり得ると思いますが、最悪を想定してどちらにもいると思っていいでしょう」
再び頭を下げた全員。
ライルは当初、ロイネ個人が狙われているだけかと思っていた。しかし事態はもっと大掛かりで根深いようだ。非常に厄介な話である。これでは街にも学園にも頼れない、それどころか裏切り者さえいる始末だ。
もはや誰も信頼できない。
「部長、この同好会に主な目的は無いんですよね?」
ライルは尋ねる。
「え?あ、あぁそうだとも。あくまでもこの同好会は各々が好きなことをやる集だ。今はたまたまポーションばかり研究しているが、別にポーション同好会という訳ではないしな。だがそれがどうしたのかな?」
「ならいいでしょう。僕たちぐるぐる同好会でこの問題、解決をしてみせましょうよ」
「それは本気なのか!?」
周囲がざわつく。フィアーネとアイリスは驚愕を、ロイネはわずかな動揺を、シンファーは興味深そうな視線を向けてくる。
正体さえ掴めない恐ろしい暗殺組織にこんな10人にも満たない学生の同好会が喧嘩を売る。あまりにも危険すぎる、そう思っているのだろう。
しかしライルは動じない。
「はい、もちろん」
「ちょっ、ちょっとライルっ!!」
「仕方ないだろ、こうするしか。どのみち街も学園も期待できないんだ。このまま手をこまねいていたらロイネや、大勢の人がまた襲われるだけぞ?被害が増える一方だ。それに俺も先日の件でリスト入りしただろうし」
「た、確かにそうだけど……」
「幸いこの同好会には実力もあって人脈もある副会長、博識な部長、魔法使いとして優秀なフィアーネ、武器の扱いに慣れたロイネ、そして俺がいる。……あとおまけとして
「私はライルに協力する。そうじゃなくても狙われてるんだし」
いの一番に言ったのはロイネだ。
「確かに面白そうですね。協力しましょう」
と、副会長のシンファー。
「これもメンバーを集めるためか。しょうがない、私も協力しよう」
渋い表情の部長。
「もう分かったわよ!私も協力させてライル」
最後にフィアーネ。
「よし、これで決まりだな」
5人の意見、数人はやむおえずだが一致した。
「じゃあフィアーネちゃんとロイネちゃんもこの同好会に加入で良いのだろう?」
途端に部長がニッコニコで言う。
「そういうことでいいんじゃないか?なぁ2人とも」
その言葉に首肯するフィアーネとロイネ。
「よし、じゃあ早速だが入会式と親睦会を執り行おう。諸君たち、今週の土曜日空いているかな?」
各々頭を下げる。
「決まりだな。全員で、そうだな仲良くなるために薬草採りでも行こうじゃないか。そしてその後、打ち上げだ。リオンくんにも伝えといてくれ」
「分かりました」
こんな誰も解決できないような問題を解決してこそ、自分の名が上がるというもの。ならばこの事件さえ踏み台にさせてもらおう。自分たちが表舞台に上がるための糧とするのだ。
そして相手には誰に喧嘩を売ったのか、後悔と恐怖を噛み締めさせてやる。
……全く面白くなってきたぞ。
ライルはニヤリと嗤った。
そこらへんの大学生、種族王になる。 @KiikaUnasaka
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