第48話 父と母、娘のバイト先のお店を助ける③

「リコンちゃん、ありがとうね。」


ラファエルがニコッと微笑むと、いつの間にかリコンがラファエルの隣に立っていた。


「あなたの転移のおかげで間に合ったから感謝してるわ。」


そう言ってラファエルがリコンの頭を優しく撫でている。


「うふふ・・・、ありがとう、お姉ちゃん。」


リコンも嬉しそうにしていた。



「ケイトォオオオオオオオオオ!」



アイが叫びながらケイトへと駆け寄った。



「アイ!どうしてここに?」


アイに気付いたケイトが父親から離れ急いでアイへと駆け出した。



「アイ!」

「ケイト!」



2人がヒシッと抱き合う。


「ケイト!ゴメン!お父さんがケイト達の状況を確認したら、いきなりあなたが襲われていて、それですぐに助けに飛んで来たの。ゴメン・・・、もっと早く気付けば・・・」


その言葉にケイトがブルブルと震えポロポロと涙を流し始めた。


「怖かった・・・、怖かったよぉぉぉ~~~~~~~~~~」


余程怖かったのだろう。

彼女は貞操どころか命の危険も感じていたから、普通の少女である彼女にとってはトラウマになりかねないレベルの恐怖を感じたはずだ。

アイに抱きつき胸に顔を埋め号泣していた。

そんな彼女を優しく抱きしめ、まるで聖母みたいな優しい笑顔でアイは彼女を見つめていた。


しばらくするとケイトが泣き止んだ。

どうやら落ち着いたようだ。


「アイ、ゴメン・・・、恥ずかしいところを見せちゃったね。」


ケイトが恥ずかしそうにアイから離れるが、アイはゆっくりと首を振った。


「ううん・・・、そんな事無いよ。あんな目に遭えば誰でも怖いしね。」



グルンと首をラファエルへと向ける。


彼女は片膝をつきアイへと臣下の礼をとっている。


「アイ様、こちらの不届き者ですが、このままでは出血多量で死ぬ恐れがありましたので、最低限のヒールにて表面の傷だけは塞ぎました。」


「そう・・・、ありがとう。後は私がるわ。もう2度と女性達を泣かせない為にもね。」


ラファエルの後ろには傷は塞がり血は流れることは無くなっていたが、胴体を亀の子縛りにされている2人がいた。


1人は全身を切り刻まれた男だったが、もう指一本も動かせないだろう。

うつ伏せ状態のまま恨みを込めた視線をアイに向けている。

もう1人は手首を切り落とされた男だ。

こいつも上半身は荒縄で同じく亀の子縛りをされていたが、こちらの方は戦意を失ってしまったのか力無く項垂れている。



アイの目がスッと細くなる。


「アンタ達・・・、よくもケイトを・・・」


ブワッとアイの髪の毛が逆立つ。


「絶対に・・・、許さない・・・」


ズズズ・・・


アイの髪が、瞳が、怒りで徐々に偽装が解けていく。


黒い髪が輝くような銀髪に、

漆黒の瞳が金色の神秘的な瞳に、


聖女の証である銀髪と金色の瞳に変化した。


アイからの圧倒的な殺気に、まだ睨みつけていた男もガタガタと震え始める。

ラファエルに全身の腱を切られ動けないはずだったが、恐怖が肉体を凌駕したのだろう、芋虫のように体をクネクネとさせながらアイから離れようともがいていた。


「ゆ、許してくれぇえええええええ!


「逃す訳が無いでしょうがぁあああああああああ!」



ダン!と左足を踏み込み、右足を大きく後ろへと振りかぶる。






「星になれぇええええええええええええええええ!」






ドム!




「へぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」




アイが後ろから男の股間目がけて思いっ切り右足で蹴り上げる。


右足の甲が股間を強烈に蹴り上げ、男はカタパルトで発射された戦闘機のように高速で空に打ち上げられた。






キラ~~~~~~ン!






男は星になった。




「さて・・・」


グルンと手首を切り落とされた男へ顔を向ける。


「ひぃいいいいいい!」


恐怖でガタガタと震えていた。


ゆっくりと近づき、男の胸倉を掴み持ち上げる。


「アイ・・・、あなたって?」


ケイトが信じられない表情でアイを見ている。


それはそうだろう。

自分と同じくらいの背格好の女の子(胸だけはアイの方が遙かに大きいけど・・・)が、屈強な大柄な男を片手で持ち上げているのだ。

ただでさえアイの髪と瞳が変化しているのを見ているし、それ以上にアイの行動が信じられない。

彼女にとっては自分の目が変になったのか?と思える程に異常な光景だ。


そんな事もお構いなしに男をお仕置きするアイの怒りはそれだけのものだったのだろう。

聖女を本気で怒らせると、後に待っているのは破滅だと知らしめる事でもあった。



「アンタ達は許されない事をした・・・、私の・・・、私の大切な友達に手を出した・・・」



視線だけで射殺せるくらいの殺気を男に放つ。



それだけで男は呼吸困難に陥りそうになって「ひぃひぃ」と言っていた。



ラファエルはというと・・・


「ご主人様の殺気、私も浴びてガクブルしたいです・・・、そう想像するとゾクゾクします!」


そう言って「はぁはぁ」と悶えている変態だった。



「あんたも後を追わせてあげるわ。」


ニタリとアイが全く笑っていない笑顔を男に向けた。


「はひぃいいいいいい!頼む!もう許してくれ!もう2度とあの店に手を出さない!親分にそう伝えるし、だからな、もう勘弁してくれ。」


しかし、アイがゆっくりと首を振る。


「もう許す許さないの話じゃないのよ。アンタ達は私達を敵に回した、ただそれだけよ。聖女の事は知っているよね?『悪人には聖女の天誅を!』、そして『悪・即・シバく』の3文字をね・・・」



「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」



男が発狂したように叫ぶ!



「アンタ達に残された道はぁあああああ!私達にシバかれるだけ!相手が悪かったと諦めるのね。」



ズドォオオオオオオオオッン!



「いやぁああああああああああああああああああああああ!」



アイの強烈な蹴りが男の股間を蹴り上げた。


ドップラー効果を残しながら男が叫び声を上げ星となった。






キラ~~~~~~ン!






「お仕置き完了よ!」


キラ~~~ン!と星が出てきそうなポーズを決めウインクをする。

(どんなポーズとは言えませんが・・・、決して「〇に代って」とは言えませんね・・・)






「アイ・・・」



ケイトがアイを見つめながら呆然としていた。



「そ!そのお姿は!」



父親が驚きの表情を浮かべ、アイに向かって土下座をする。


「ま、まさか!あなた様は聖女様だったとは!今までのご無礼をお許し下さい!」


その言葉にアイの視線が下がる。


(はぁ~~~、やっぱりお父さんの言った通りね。私が聖女だと分かってしまえば、普通の人達はこんな反応をするってね。王国では友達作りは難しかったけど、ここでも友達はダメかもね・・・)



「アイ・・・」



ケイトがギュッとアイに抱きつく。


「私を助けてくれて本当にありがとう。」


嬉しそうにケイトがアイの顔を見つめている。


「ケイト・・・、私・・・、黙っていてゴメン・・・、私ね、実はね・・・」


そんなアイの口をケイトの人差し指が押えた。



「アイ・・・、あなたはアイよ。どんな事情があっても私の友達のね。」



「ケイト・・・」



アイの目から涙が流れる。


「こらこら・・・、世界最強のあなたが泣くなんてみっともないわよ。うふふ・・・、私がアイを泣かせたみたいじゃない。そうなったら私が世界で1番強いのかな?だって世界最強の聖女を泣かせたからね。」



「ありがとう・・・、ケイト、あなたは最高の友達よ。」



そして、ケイトがグルンと首を回して父親へ視線を移した。


「お父さん、そういう事だから、アイは今までと同じ私の友達よ。だから、お父さんも今までの態度を変えたらダメなんだからね。アイは普通の女の子のなの。」


「し、しかし・・・、そんな失礼な事は・・・」


ジロッとケイトの視線が鋭くなる。


「お・と・う・さ・ん!」



「はい・・・」



父親が渋々と返事をしていた。


ケイトがクルッと嬉しそうにアイに向き直った。


「アイ!明日からもよろしくね!アイ目当てに来るお客さんも増えてきたから、アイがいないと大変なのよ。その分、特別ボーナスを出すからね。」


「うん!分かったわ!」


2人が仲良く手を繋いだ。


父親は『本当に大丈夫なのか?』と不安そうな表情になっていたのは、ケイトは敢えて無視をしていた。







「アイ・・・、良かったな。親友が出来てな・・・」


物陰からスザクがコッソリと覗いていた。




「後は・・・、俺達大人の仕事だな。」




そう呟くと、横にいるアリエスもゆっくりと頷いた。














「えぇえええええええええいぃいいいいい!どうなっているんだ!」



とある事務所にある豪華なソファーに座っている男がイライラしながら灰皿を投げつけた。



ガン!



灰皿を投げつけられた男は苦い表情で男を見ている。


「も、申し訳ありません。」


男が深々と頭を下げる。


「ザコー3兄弟はどうなっている?ザコーエーはケツの骨を砕かれたとかってアホな理由で入院したっていうのに、その仇を取るって息巻いて出て行ったザコービーとザコーシーはどうした?この時間になっても連絡無しだぞ!アイツらぁぁぁ・・・、どこで油を売っているんだよ!」


この組の組長であるモブーノがイライラした様子でソファーに立ったり座ったりと忙しそうにしている。


「あそこの店はあの区画の中じゃ1番の高額な土地なんだぞ!俺がわざわざ区長に金を渡して区画整理の話を持ってきたが・・・、区長は中央の貴族様から直々に話をもらっているんだぞ!その為にはなぁ!俺達が押さえておかなければ区長と金を山分け出来ないんだよ!それなのにいつまで時間をかけているんだ?多少、手荒な手段を使っても構わん!さっさと追い出してこい!」


「はっ!分かりました!」


壁に並んでいる男達が深々と頭を下げ、一斉に扉へと駆け出そうとした瞬間!




コンコン・・・




いきなりノックの音がする。


男達の間に緊張が走る。


この部屋に用事のある外部の人間の話は聞いていない。

これはいきなりアポ無しで押しかけて来ているに間違いない。

ただでさえ組長の機嫌が悪いのに更に組長を煽るなんて、こんな命知らずはどこのどいつなんだよ!と文句を言いたそうにしている。



「スミマセ~~~~~ン!ピザをお届けに参りました。」 



「「「はぁ?」」」



誰がそんなモノを頼んだ?と全員が顔を見合わせる。


「誰が頼んだんだよぉおおおおおおおお!」


全員の予想通り組長が超不機嫌な態度で男達を睨んだ。

ビビってしまい誰もドアのところへは行けない。


「誰も受け取りに来てくれませんので勝手に入りま~~~~~す。」



(((おいおい!)))



そんな命知らずの事やらないでくれぇえええええええええええええ!



全員の切な願いだった。



ガチャ!



「毎度ぉぉぉ~~~~~!」


勝手にドアを開けて男が入ってきた。


本当にピザを持ったスザクである。



「おい!貴様ぁあああああああ!」



1人の男がスザクへと掴みかかろうとした。


「熱いから気を付けて下さいね。」


そう言って熱々のピザを掴みかかってきた男の顔に押し付けた。


「ぎゃぁああああああああああああああああ!」


それは堪らないでしょうね。

パニックになり顔に貼り付いてしまった熱々のピザを剥がそうとした瞬間、


ズム!


「お”っ!」


スザクの膝が男の股間に食い込む。


「あ”あ”あ”あ”あ”・・・」


男が情けない声を上げ、ゆっくりと股間を押さえながら崩れ落ちた。


「ふむふむ・・・」


スザクが顎に手を当て、少し思案顔で倒れた男の様子を見ていた。


「アイの真似をしてみたけど、これはかなりエグいな。まぁ、すぐに戦闘不能になるし、ある意味効率的な戦い方かもしれん。だけどな、同じ男として痛みは理解出来るしあまりやらないようにした方が良いな。」



「「「てめぇええええええ!」」」



スザクの周囲を男達が取り囲んだ。


「お前はどこの組の鉄砲玉なんだよ!これだけ舐めた真似をしたんだ、ただで済むとは思うなよ!」


男の1人がズイッと前に出てスザクに叫んだ。」










「嘘だ・・・、こんなのあり得ない・・・、俺の組の精鋭がこうもあっさりと・・・、夢でも見ているのか?」




「さて、組長さんよ・・・」



ズタボロになった男達が一カ所に山積みになって気を失っている。

その頂上にスザクが座り組長を見下ろしていた。


「だけどなぁ~~~」


ニタリと組長が笑う。


「兵隊はここにいるだけじゃないんだよ!ここまでどうやって来たか分からないが、下の階には50人以上の組員がいるんだよ。いくら強くても50人相手ではどうにもならんだろう!ぎゃははははは!」



ガチャ!



「あなた、下の階は全員ぶちのめしておいたわよ。手応えがなさ過ぎてつまんなかったけどね。」


アリエスがドアを開けて入ってくる。



「ははは・・・」



組長の笑い声が止ってしまう。


スタッ!


スザクが人の山から降りアリエスの横に立った。


「残りの人間はお前1人だけだ。お前の後ろにいる人物に組織、洗いざらい吐いてもらうぞ。」


スザクがポキポキと拳を鳴らしながら組長へと近づく。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ、死にはしないからね。まぁ死ぬほど痛い目には遭わせるから覚悟してね。」


アリエスがパチンと可愛くウインクをする。




「ひぃぃぃ・・・、ひぃぃぃ・・・、た、助けてくれぇぇぇ・・・」




組長がマッハの速さで2人の前で土下座をした。



「無理だな、却下!」


「人間、諦めも肝心よ。ご愁傷様。」



2人がゆっくりと近づく。





「ひぃ!ひぃ!ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


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無能と言われていた父親、我慢は止めて本気になりました。 やすくん @yasukun33

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