第47話 父と母、娘のバイト先のお店を助ける②
「何とお礼を言ったら・・・」
マスターがスザクへと深々と頭を下げた。
「いや、俺は何もしていないぞ。追い払ったのはあそこにいるアリエスだからな。」
「し、しかし・・・、あなた様が何かをしたのでは?」
スザクが首を横に振ると、マスターがニコッと微笑む。
「そういう事にしておきましょう。だけどお礼だけはさせて下さい。」
そう言ってマスターが深々とスザクへと頭を下げた。
「ところで?あの連中はどういった関係で?」
スザクが鋭い視線になってお店の玄関を見ていた。
「まだしぶとく頑張っているわね。無理だと理解する頭も無いのかな?」
ニタニタとアリエスが笑みを浮かべている。
「当分はこの店には入れないはずよ。この店に対して悪意を持っている連中は入れない結界を張ったからね。どんだけ頑張ってもあの程度の連中は絶対に入れないわ。」
「さすがお母さんね。今の私じゃまだお母さんには敵わないわ。」
アイがやれやれとした表情で両手を横に振った。
「ちょっと、アイ・・・」
ケイトがアイの脇腹をツンツンする。
「あんたの親って何者なのよ。面倒事に進んで首を突っ込むし、特に!あんたのお母さん!まさかのまさか!あの連中をぶっ潰すって・・・まるで夢でも見ているようだわ・・・」
色々と叫んでしまった後、やれやれといった感じでおでこに手を当てた。
「こら!ケイト!」
ケイトの母親がケイトへ怒鳴る。
「あんた!お父さん達が話している最中に横やりを入れるんじゃないよ。大事な話なんだからね!」
「ごめんなさい・・・」
母親に叱られシュンとしてしまったケイトだった。
「話を元に戻しますね。」
その言葉にスザクがゆっくりと頷く。
「あの連中はこの区画で大きな顔をしているモブーノファミリーと言うヤクザ組織の連中です。どうやら、この地区が再開発地域の候補にあがったようで、私達のような昔からいる住人を追い出して。その家にタダで居座り、まんまと立ち退き料を国からせしめようとしているのです。ただ、あくまでも噂なので本当のことは分かりませんが・・・、ですが、実際に嫌がらせをされ追い出されてしまった家族もありますし、その後、ゴロツキどもが誰もいなくなった家を根城にしている光景を見ていますので間違いないかと・・・」
「そんなのは一介のヤクザ組織だけで可能なんですか?そんな事、すぐに国にバレて牢屋行きですよ。」
アイがそう言っても今度はケイトが首を振る。
「そんなの単なるヤクザ集団が単独で出来る訳がないわ。多分だけど、もっと偉い貴族が絡んでいるんじゃないかとね。だけど、平民の私達にはどうしようも出来ないの・・・」
ケイトの目から涙が零れる。
「このお店は私が小さい時からお父さんとお母さんが頑張って続けたお店なのよ。それを、金の亡者のような貴族達の金儲けに利用されるなんて・・・、私達が何をしたっていうの?ただ毎日頑張っているだけなのに・・・」
堪え切れずにケイトが母親に抱きつき泣きだしてしまう。
「お父さん・・・」
アイが視線をスザクへ向ける。
スザクとアリエスがゆっくりと頷いた。
数日後・・・
「お父さん、あれからアイツ等お店に来なくなったね。」
「そうだな・・・」
ケイトと彼女の父親が市場の中を歩いている。
ちょうど食材の仕入れの最中だった。
ケイトの言葉に父親が少し不思議そうな顔をしている。
「ご近所さんから聞いたんだけど、奴らはまだ諦めていないようなんだ。うちに何度か来ているみたいだけど、お店の前で何かしているみたいだけど、しばらくしてからすごすごと帰っているようなんだ。不思議だよな。」
「そうね、まるで見えない壁があって、アイツ等だけ通さないようになっていたりしてね。まっ!そんな事は無いか!」
父親の言葉にケイトがカラカラと笑っている。
楽しそうに歩く親子の光景だった。
しかし・・・
「見つけたぞぉおおおおおおおおおお!」
後ろからいきなり怒鳴り声が聞こえる。
(何?何?)
訳が分からずケイトがいきなり振り向くと、いきなり腕を掴まれた。
「げへへへ、こんなところにいたとはな・・・」
あの3人組の1人だった。
「は!離してよ!何をするのよ!」
ケイトが暴れるが、屈強な男の力の前では為す術もなく、あっという間に腕を捻り上げられてしまう。
「ケイトォオオオオオオオオ!」
父親が大声を出し救い出そうと動いたが・・・
「おっと、動くなよ・・・」
もう1人が現れ、ケイトの首にナイフを近づける。
「大人しくするんだな。あんたの態度一つで可愛い娘の命が無くなってしまうからな。げへへへ・・・」
男達がペロリと下品な笑みを浮かべ舌なめずりをする。
「お前達!何が目的なんだ!俺達の店にも嫌がらせをして!」
「決まっているだろう。お前達がさっさと店を出て行ってほしいからよ。その後で、俺達がタダで住ませてもらうつもりだよ。げひゃひゃひゃ!」
「くっ!」
父親がギリギリと歯を食いしばった。
「噂は本当だったのか・・・、こんな奴らに俺達の夢を・・・」
「ぎゃはははははぁああああああ!」
またもや男達が下品な笑い声を上げる。
「ここで待ち伏せして正解だったな!お前達の店にはどうしても入れなかったしな。」
(何だと!)
父親が信じられない事を聞いた。
まさか、娘のケイトが言った事は本当だったなんて・・・
だから、アイツ等が店に来なかった訳が分かった。
「だよな、何か見えない壁のようなものがあってな、俺達だけが何でか店に近づけないんだよな。他の奴らは普通に素通りしていくのにな。だからだよ、店に行けないからここであんた達を待ち伏せしていたって訳だ。」
「娘を放せ!俺達が店を出ていくから!だから!娘を!」
しかし、その言葉を聞いた男達はゲラゲラと笑う。
「そんなのさぁあああああああ!お前達が店をたたんで出ていくまで返す訳がないだろうがぁああああああああああああああ!」
1人の男がケイトの顔に近づきペロッと舌なめずりをする。
「ほぉぉぉ~~~~~~、こいつもかなり上玉だな。どうだ?こいつに男というものを教えてやるのもいいかもな?初物らしいし楽しみだよ!今夜は俺達の相手で寝させないぞ!兄貴はケツをぶっ壊されて動けないから、兄貴の分まで徹底的にヤッてやるからな!それこそお前が壊れるまでな!うひゃひゃひゃぁあああああああ!」
「いや・・・、いや・・・」
ケイトが涙を流しながら首を振っている。
「げひゃひゃひゃぁあああああああああああああ!堪んないぞ!この初々しい反応はな!嫌がる女を無理やりヤルのはそそる!ビンビンくるぞぉおおおおおおおおおお!」
「や!止めてくれぇええええええええええええええええええ!俺はどうなってもいい!ケイトだけはぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「そうかい・・・」
ケイトにナイフを突きつけていた男がケイトから離れ父親へと近づく。
「どうなってもいいって?ぐひひひ・・・」
とてもいやらしい笑みを浮かべた。
「頼む・・・、ケイトだけは・・・、どうか・・・」
父親が額を地面に擦り付けながら土下座をしている。
「ぶわぁあああああか!貴様なんぞどうでもいいんだよ!娘はもらっていくぜ。可哀そうによぉおおおおお!親父が意地を張ったばかりに酷い目に遭わされるなんてな。まぁ、俺達はこいつで思いっきり楽しい思いをするからな。飽きたら娼館に売っちまえば金が入るし、ぎゃはははははぁああああああ!この商売止められないぞ!楽して金が稼げる!誰も俺達に逆らえない!最高だぁああああああああああ!」
男の足に父親が縋り付く。
「お願いだ!娘だけは!どうかぁあああああああああああああ!」
「うるせぇええええええええええ!もう貴様はここで死ね!通り魔に刺されたって事でなぁああああああああああああ!」
男がナイフを振り上げた。
「ゲスが・・・」
どこかで凛とした女性の声が響いた。
「誰だ!」
次の瞬間、ケイトを羽交い絞めにしていた男が悲鳴を上げた。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!痛い!痛い!」
後ろから女性の腕が伸び、男の頭を鷲掴みにしている。
「お前達、後ろががら空きだぞ。それだけ隙だらけだから簡単に後ろを取られるんだ。」
「ひぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
あまりの痛さに思わずケイトを放してしまう。
その隙にケイトが女性の後ろへと駆け出した。
「これで人質は無くなったな。そぉおおおおおおおらぁあああああ!」
信じられない事に、女性は屈強な体格の男を軽々と持ち上げ、片手でもう1人の男へ放り投げてしまう。
グシャァアアアアアアア!
「「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」」
男達の悲鳴が聞こえた。
その隙に父親は女性の後ろにいたケイトへと駆け寄り抱きしめた。
「ケイト!」
「お父さん!」
2人が涙を流しながら強く抱き合っている姿を見て女性が微笑む。
「お前・・・、一体、何者なんだよぉぉぉぉぉ~~~~~」
ヨロヨロと男が起き上がり鋭い視線を女性へ向ける。
「メイド?そんな奴が何でここに?」
そう!
そこにはメイド服を着た女性が立っていた。
腰まである長い金髪をポニーテールで束ね、海よりも深い青色の瞳を男達へと向けていた。
「貴様ぁぁぁ!ただのメイドではないな?」
「そう?分かりました?」
メイドがニタリと笑顔を浮かべる。
「このぉおおおおおおおおおおおおおおおお!なめやがってぇええええええええええええええええええ!」
勢いよく立ち上がり、手に持っていたナイフを振り上げた。
キン!
いきなり澄んだ音が響く。
パラパラ・・・
「はぁあああああ?」
男が持っていたナイフの刃が細切れになって地面へと落ちていく。
スチャ!
いつの間にかメイドが金色の細身の剣を右手で構えていた。
「な、何だよ貴様はぁぁぁぁぁ~~~~~~~~」
男がガタガタと震えてメイドを見つめていた。
「私ですか?」
スッと視線が鋭くなる。
「なぜか席がまだ残っているのですが、私はテンプル・ナイツ第2席ラファエルと申します。」
「テ・・・、テンプル・ナイツだと?そんな連中がどうしてメイド服を着ているんだよ?」
「どうしてと申しましてもねぇ、私はご主人様に忠誠を誓った身、その証としてご主人様のお世話をする服装がこれなんですよ。それを馬鹿にするのですか?」
絶対零度の視線が男達を貫く。
「まぁ、その前に私とあなた達との差を分からせてあげましたけどね。」
ボト!
「へ?」
男は目の前に起きた現実を理解出来ず、しばらく呆然としていた。
不意に我に返る。
「う、腕が・・・、俺の腕がぁああああああああああああああああ!」
ナイフを握っていた右腕の手首から先が地面へと落ち、しばらくしてから血が大量に噴き出す。
「痛い・・・、痛いよぉぉぉ~~~~~~~~」
情けなく座り込み、無くなってしまった腕を押さえながら泣きじゃくっている。
「何を言っているのですか?あなたは私に刃物を抜き殺傷しようとしたのでしょう?相手を殺そうとする事はあなたも殺される可能性があるのですよ。まさか?自分は殺される事がないと思っていたのですか?ふふふ・・・、甘い、甘いですね。まぁ、私はご主人様に不殺の誓いを立てましたから殺しはしませんが、相応の痛みは感じてもらいますよ。」
冷たい視線を蹲っている男からもう1人の男へと視線を移した。
「待て!俺は武器を持っていないんだぞ!お前は教会の騎士だろうが!無抵抗の人間に剣を向ける?そんな事はしないよな?」
しかし、ラファエルは冷たい視線を変えずに口角だけを上げた。
「何を言っているの?全部聞いていたわよ。未成年少女にあなた達は何をしようとしたのかしら。あなた達の欲望のはけ口にしようとしたのでしょう?女の敵ね。万死に値するわ。」
「こ!このおぉおおおおおおおおおおおおおお!」
男が懐からナイフを取り出し、ラファエルへと飛びかかった。
構えた剣が黄金の光を放つ。
「ライトニング!ブレード!」
金色の幾条もの閃光が男の周囲に浮かぶ。
「うぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」
男が全身から血を噴き出しながら吹き飛んでいく。
ドサ!
白目を向いて気を失っていた。
「つまらぬものを切ってしまったわ・・・」
心底嫌そうな表情で呟いた。
「殺しはしません・・・、ですが、全身の健を切っておいたから、残りの人生はずっとベッドの上で生活することですね。これが私に敵対した対価です。ご愁傷様・・・」
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