第46話 父と母、娘のバイト先のお店を助ける①

アイが帝国の学園へ編入して2週間が経過した。




「美味いなコレは。」


「でしょう!」


ウエイトレス姿のアイがスザクが料理を食べているところを見ていた。


「本当に美味しいわね。毎日でも食べたいわ。」


アリエスは口いっぱいに料理を頬張っていた。


(お母さん・・・、行儀が悪いし、恥ずかしいよ・・・)


少し引き攣った笑顔のアイだったりする。


今のスザクは偽装していないイケメンバージョンの姿で、アリエスの方は銀髪と金色の瞳を、帝国では1番多い金髪と青色の瞳に偽装していた。


アリエスの方は聖女だとバレないようにとの偽装だが、なぜスザクが普段のイケメンでいるかというと・・・


アリエスは20歳でアイを産んでいて、それ以降は封印されていたので、見た目はアイとは姉妹と言われても全く違和感のない若い見た目だったりする。

実際の体年齢はそうだからねぇ・・・

そんな若いアリエスと偽装スザクが一緒に街中を歩いてしまうと、確実に親子に見られてしまうので。アリエスにとってはそんな反応にはとても不満を持っていた。

そんな訳で、2人が揃って出かける時はスザクは偽装しない事にして、カップルだと見せつけてイチャイチャしたいとのアリエスの強い要望だった。


アリエスとしてはたった2年間の結婚生活しか出来なかったので、聖女として教会で癒やしの仕事をしていない時は出来るだけスザクとデートするのに時間を割いている。

スザクもそんなアリエスの気持ちに応えようと一緒に出かけるようにしているので、アイからは「けっ!」と羨ましがられていたりした。


そんな2人が食事をしているテーブルの前に2人の男女が立った。

どちらも30代後半か40歳前後に見える。


「わざわざお越しいただいて申し訳ありません。」


2人が頭を下げる。



「いえいえ、アイがこちらでお世話になっていますし、こちらのお店の料理は絶品だとすごく言っていましたからね。それならば是非とも食べたいと思いお伺いした訳ですよ。」


スザクがペコリと頭を下げると、女性の顔がポッと赤くなり俯いてしまう。


本当にイケメン様々ですな。


その様子をアリエスが冷ややかな視線で見ているのをスザクが感じブルッと震える。


(もぉ・・・、お父さんとお母さんったら・・・、こんなところでイチャイチャしないでよ・・・)


盛大に溜息を吐くアイだった。



ツンツン



アイの隣にいる同年代くらいの少女がアイの脇腹をツンツンと突く。


「ケイト、どうしたの?」


「どうしたもこうもないわよ。」


(はて?)


彼女の言葉の意味が分からないアイだったりする。


「あの2人ってアイの両親なのよね?普通ならあそこにいる私の両親くらいの見た目のはずよ。それなのにぃぃぃ~~~~」


そう言ってケイトと呼ばれた彼女がうっとりとした視線でスザクとアリエスを見つめた。


「あんなイケメンのお父さんに美人のお母さんか・・・、アイが学園でも一番可愛いって噂も分かるわ。たった2週間しか経っていないのに関わらず一瞬で人気トップに君臨よ。あんなのを見れば納得ね。それによ、どう見てもお兄さんとお姉さんにしか見えないしね。私の親と比べるとどんだけ若く見えるのよ。そんな完璧両親の親を持っているあんたが羨ましいわ。」


「まぁまぁ落ち着いてよ。」


少し興奮しているケイトをアイがなだめる。


「そんな事に全く拘らないのがアイのいいところなんだろうね。あんた、自分がどれだけの美少女なのか分かっているの?」


その言葉にアイがコテンと可愛く首をかしげてしまう。


「そうなのかな?どちらかと言えばケイトの方が可愛いと思うんだけどね。」


「そんなの嫌味にしか聞こえないわよ!」


ケイトがアイの頭をヘッドロックし、グリグリと拳を脳天に押し付ける。


「痛い!痛いってば!」




「仲が良いですね。」



アリエスが微笑み2人のやり取りを見ている。


「いえいえ、こちらこそ本当に助かっています。勉強も教えてくれる上に、私達のお店も手伝ってくれますし・・・」


女性の方がアリエスへ深々と頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ感謝しています。王国にいた頃はあの黒い髪でなかなか友達もいなかったもので・・・」



本当はあのボンクーラ達に粘着され、周りの人達はとばちりを喰らうのが嫌でアイに寄り付かなかっただけなんですけどね。



「帝国はそのような事が無くて安心します。それにすぐにアイの友達になってくれて、とても感謝していますよ。」


聖女スマイル発動で、女性でもポッと顔を赤くさせててしまう。




そん親同士の何気ない挨拶だったが、その空気を一変させてしまう声が店内に響く。



「おい!これは何なんだよ!」



野太い声が奥の席から聞こえた。


「はい!何でしょうか?」


慌てて夫人がその声を出した客の方へと走っていく。

そこにはガラの悪そうな男達3人が酒を片手に料理を食べていた。


夫人が嫌そうに眉をしかめる。


その中の1人が空になった皿の1つを指差す。

中には死んだゴキブリが1匹乗っていた。


「おいおい、料理の中に虫が入っていやがったぞ!こんなものを俺達に食わしたのか?どう落とし前を着けるんだ?あぁあああああああああああ!」


その様子をアイも見ている。


(はぁ~、いくら文句を言うにしてもよ、全部食べた上によ、あんな完全な形のゴキブリが入っていたって・・・、どう考えも言いがかりよね?)


そう思っていたが、わざとやった証拠もない。



「も、申し訳ありません!すぐに作り直します!」



夫人がペコペコと頭を下げるが、男達が調子に乗ってゲラゲラと笑い出した。



「もう腹はいっぱいなんだよ!酒だ!もちろん、タダでいくらでも飲ませてくれるんだろう?だってなぁあああああ!虫入りの料理を食べさせてしまったからなぁああああああ!」



周りのお客にも聞こえるように大声で騒ぎ始めた。



「ケイト・・・」


アイが隣にいるケイトに声をかけると、彼女は拳を握りしめブルブルと震えている。


「あいつ等・・・、また来やがって・・・、どれだけこの土地が欲しいのよ・・・」


「どいうい事?」


ケイトの呟きに不穏な空気を感じ、そっとケイトに近づいた。


「あの連中って、何回も嫌がらせに来ているの?」


「うん・・・、嫌なところを見せてしまってごめんね・・・」


ケイトが小さく頷くと、その眼にはうっすらと涙が溜まっている。


(これはかなりの回数の嫌がらせに来ているようね。この土地って?)



「おいおい!これはぁあああああああ!」



男の1人の視線がアイへと向いた。


「こんな可愛いガキがいやがるなぁああああああ!お前!こっちに来て俺達の相手をしろや!」


ピクッとアイの眉が一瞬上がる。

そしてスザクとアリエスへ視線を移した。


その視線の動きをごろつきどもが感じ取ってしまったようだ。



「おい!そこの姉ちゃん!こんな冴えない男と一緒にいるよりもなぁあああああ!俺達と一緒にイイコトしないか?げへへ・・・、これだけの美人だ、モブーノ親分も喜ぶぞ!」



そう言って1人が立ち上がり、アリエスへと歩き始めた。




「や!止めて下さい!この方はお客ですし、このお店とは関係ありませんから!」




慌てて夫人が男の前に立ち塞がったが、


「うるせぇえええええええええええええええ!このババァアアアアアアアア!」


男が拳を振り上げ殴りかかった。






「お母さん!」






直後に起こるだろう惨劇を感じ取ってしまい、ケイトが顔に手を当て目を閉じてしまった。



しかし・・・




し~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん




静寂だけが店内を支配していた。



「何が起きたの?」



ケイトが信じられない目で目の前の光景をマジマジと見ていた。



「そんなの・・・」



男が夫人に殴りかかる姿勢のまま硬直している。


かなり力が入っているのだろう。顔が真っ赤になってプルプルと震えていた。

しかし、どんなに力を入れても全く体が動く気配が無かった。


「お父さん。」


アイの視線がスザクへと向く。

そのスザクの人差し指がピクッと動いているのをアイは見逃さなかった。


「やっぱりお父さんの仕業だったのね。ありがとう。」


スザクはアイへパチンとウインクするとアイもニコッと微笑む。



「さて・・・」



ちょうど食事を食べ終えたアリエスがスクッと席を立った。

軽やかに身を翻し硬直したままの男のところへと歩き始める。


「あんまり過激な事はするなよ。」


スザクが小さく呟くと、アリエスがグッと親指を立てた。


「お店を壊さないように手加減するわよ。まぁ、女性を殴ろうとしたのだから相応のお仕置きはするつもりだけどね。うふふふ・・・」


まるで肉食獣のようなどう猛な笑みを一瞬浮かべた。



「奥さん、ここは私に任せて。」



そう言って恐怖で床に座り込んでしまった夫人の肩に手を添えた。


「おばさん、ここはお母さんに任せて。絶対に悪い事にならないから。」


アイがそう言って夫人を立たせ。ケイトのとこへと一緒に歩いていく。



「あれ?どうしたのかしらね?急に固まっちゃって。」



アリエスが硬直している男の顎に指を当て微笑む。


「お前!何かしたのか!俺様達が誰だか分かっているのか!俺達に逆らったどうなるか分かっているんだろうな!」


体は動かないが口は動かせるので、一生懸命威張っているのだけどね・・・


誰に喧嘩を売ったか?



ご愁傷様です。



「分からないけど、どうなるのかしら?」


アリエスがニタリと笑った瞬間、硬直していた男の動きが元に戻り、アリエスの顔面目がけて拳が振り下ろされる。



パシッ!



「え?」


男が驚愕の顔でアリエスを見つめた。


「女が・・・、女が俺の拳を受け止める?それも軽々と・・・、夢でも見ているのか?」


「残念~~~~~~、これは現実よ。」


アリエスは男の拳を左手の掌で受け止めている。

そして男の拳を握り始めた。



ミシミシ!



「い!痛てぇええええええええええええええ!こ!拳が潰れるぅうううううう!俺の拳がぁあああああああああ!」


男がとても痛そうな表情でアリエスから拳を引き剥がそうとしているが、握ったままの状態でビクともしない。

しばらくすると、アリエスの指が徐々に男の拳に食い込み始める。


そしてとうとう・・・



メキョッ!



「うぎゃぁああああああああああああああああああ!」


とうとうアリエスが男の拳を握り潰してしまった。



「痛てぇえええええええええええええ!痛てぇええええええええええよぉおおおおおおおおおおおおお!」



男が拳を押さえながら泣き叫んだ。



「たかが拳が潰れた位で泣くなんて、根性が無いわね。」


ニタリとアリエスが口角を上げる。


「まだ終わらないわよ。」


アリエスが拳を押さえヒィヒィと言っている男の後ろへと回り込み腰をクラッチする。

そのままゆっくりと持ち上げる。


腰を落とし右足を前に踏み出し膝を立てた。



「挨拶代わりのぉおおおおおおおおおおおおおお!」



ズン!






「アトミックゥウウウウウウウウ!ドロップ!」






「ひぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



アリエス必殺のアトミック・ドロップが男の尾てい骨へと炸裂した。



「尻がぁあああああああああああああ!尻がぁああああああああああああああああ!」



哀れ・・・


男は恥も外聞もなくお尻を押さえながら床を転げ回っている。

確実に尾てい骨が砕けたに間違いない。


「おほほほ・・・、今のは見なかった事でお願いしますね。」


アリエスがニコニコスマイルで周りに笑顔を振りまいていたが、あまりの光景に誰もが目に焼きついていたのに間違いは無いだろう。


アリエスさん、ある意味自業自得です。



「「き!貴様ぁああああああああああああ!」」



残りの2人の男達が余りの惨状に慌てて席を立ったが、ピタッと動きが止る。


「な!何があった?体が動かない!」

「体が勝手にぃいいいいいいいいいいいいい!」


男達がプルプルと震え、自分達の懐に手を突っ込んだ。

手を出すと、男達の手にはずっしりと重そうな財布が取り出された。

その財布をそっとテーブルの上に置いた。


「お、俺の財布がぁああああああ!」

「全財産なのに体が勝手にぃいいいいいいいいいいいいいい!」


男達が悲痛な声を上げて叫ぶが、その言葉とは裏腹にゆっくりとぎこちない動きで、床を転げ回っている男の元に立ち、その男を持ち上げた。


「体が勝手に出口にぃいいいいいいいいいいいいい!」

「お、俺の金がぁあああああああああああああああ!」


男達がぎこちない動きで出口へと歩いていき、そのまま外へと出て行く。


「マスター、良かったな。これ以上騒ぎが大きくならなくてな。それに、あれだけのお金を置いていくなんて大層気前がいいんだな。」


スザクはニヤリと笑ったが、マスターは苦笑いが精一杯だった。


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