それでも男は宇宙を目指した
美山ヒカリ
プロローグ:俺の生きる世界
人類はかつて栄華を極めた。遺伝子組み換えによる身体強化、人間を超えるサイバネティクス、トンデモ火力のロボット兵器、どんなデータも一秒もかからずに送れる通信網、人間の賢さを超えたAI、太陽が燃え尽きるまで尽きることのないエネルギー……ありとあらゆる技術は人類に繁栄をもたらした。
そして栄華はそれらの技術によって崩壊した
遺伝子組み換えで生産されるスーパーソルジャー、銃弾も耐えうる外骨格をつくるサイバネティクス、そんなサイボーグさえ消し飛ばすロボット兵器、どんな戦況もあっという間に伝える通信網、それを処理し効率的な戦争を演算するAI、地球を焼き尽くしてもちっとも減らないエネルギー……
ありとあらゆる技術は人類に牙をむいた
崩壊は最終戦争開戦から1年で起きたらしい。2つに別れて争った人類の片方がスーパーソルジャーとは名ばかりのミュータントを生産、サイバネティクス技術で強化してあちこちにばらまいた。
もう片方のロボット兵器はそれを掃討。それらのデータ計算しAIが弾き出した完璧な作戦が夢のエネルギーを用いた大量破壊兵器の使用だった。
人間がなぜそれを承認したのかは知らない。というか、もう承認すらせずに任せきりだったのかもしれない。
とりあえず、丁度開戦から1年経ったときその作戦にしたがって各地にミサイルがぶち込まれた。相手陣営にはもちろんだが味方陣営にも同量ぶち込まれたらしい。ミュータントが国内に入り込んでいたとかどうとか理由をつけたらしい。案外AIも、クソだわこの世界とか思ったのかもしれない。
栄華を極めた人間社会は崩壊した。
たが打ち漏らしだって当然存在した。そのうち漏らしの子孫が俺、ジョナサンである。
そして俺が住んでいるのは「島」だ。ナントカ島のような名前はない。他にこんな場所がないせいで別に「島」というだけで意味は通るからだ。
バカみたいにデカイ川の中央にある。なんでも昔存在したアマゾン川とかいうのよりデカイ川らしい。
向こう岸に何があるかはわからない。ただ、無限に砂漠地帯が続いてるのは知っている。復元した望遠鏡で見たからだ。
そんな場所で俺は、俺たちは生きている。
他に場所に人間がいるかはわからない。
さて、うち漏らしは人間だけに限らない。さっきあげたわけのわからない技術の産物は普通に生き残っている。海から進化を繰り返したミュータントは襲ってくるし、空からも自動工場で生産され続けているロボットは襲ってくる。
通信網もなぜだか生き残っているのでしかるべき端末を用意すればなぜだか生き残ってるデータベースにアクセスできる。AIと夢のエネルギーも残骸ぐらいはどこかにあるかもしれない。
基本的に他の奴らはケガレがつくとか言ってそんなかつての栄光の残渣に触れたがらない。駆除もしたがらない。それをするのは「清める者」に選ばれた俺の役割だ。
不満はない。ミュータントもロボットの駆除はコツをつかめば死にはしないし、回収したパーツで色々作ったり修理できたりするのだ。
人類滅亡の原因も修理した端末からアクセスしたデータベースで知ったのだ。いくらでも面白いものは見れる。魚採って、食って寝るだけの他のやつらの生活よりはだいぶマシだ。
ただ、やりたいことはある。無理だとはわかっているが。月から地球を見てみたい。かつての宇宙飛行士のように、月に降り立ち地球を見てみたい。
今でも鮮明に思い出す。不安定な挙動にビクビクしながら使っていた端末に突然蒼い球体の画像が表示されたときのことを。自分が住んでいるのがその球体であると知ったときのことを。
自分がちっぽけな存在だと知った時、なんとも言えない不安感を覚えた。だがそれ以上にどうしようもない高揚感も覚えた。今まで生きてきて、アレ以上の興奮はなかった。
この島から出ることさえ出来ない人間にそれが出来ないのは分かっている。だが……それでも見てみたいと願う。だから今日もガラクタを漁る。せめてよりキレイに宇宙を見るために。
それでも男は宇宙を目指した 美山ヒカリ @taberenaikarei
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