最もトラジックで最もホープレスで最もフェティッシュな老後生活

白川津 中々

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無事定年を迎えたころ、俺には金がなかった。


職を転々とし時には年金やら保険やらを払わずにいた時期もあるため老後の収入は月に8万程度。貯金はなんとか三桁万円はあったが持って2年。持ち家もなく妻子もいない。どうやって生きていくかの計算が立たない状況。真綿で首を絞められるようで気分が沈んだ。若い頃に遊ばず蓄えておけばなど後からいくらでも言える事。歳を取る前の方が金がかかるのだ。財などなせるか。貯金は0。そせいで婚活でも書類審査落ち。勝手なものだ、男に使わせるだけ使わせておいて!



やはり、稼がねばならぬか。



この老体ににどこまでできるか、未知数だがやるしかなかった。さっそく前職の経験を生かしてNFTゲームに参加。手堅いトークンを買って寝かせていると利幅が脅威の30%を突破。想像以上の結果に驚きながら現金化し税金分を差し引いた約20万を得る。その後も投資を続けるとまぁ儲かる儲かる。気が付けば働いていたころよりも手元に残る金が多くなっていた。




これ、もしかしてボロくない?





油断し切っていた。全てが上手くいくと思っていた。しかし、全てを失った。ある日、とあるオンラインセミナーに参加した際、信頼できる投資家からこんな事を言われたのが始まりである。




「オケラポップを手に入れる方法が分かった」




オケラポップとは保有するために幾重もの個人承認を突破しなければならない伝説のNFTである。そのあまりの堅牢ぶりに火の中のダイヤと言われていた。それを入手するなど不可能に等しくさすがに疑ったが、投資家が言うには承認作業時に特定の操作を行う事でサーバのスクリプトが誤作動を起こし個人情報が一律で承認されるという話だった。また、彼は続けてこうも言った。この方法は不正だからいずれ対策もされるが、その前に買い入れて一気に売り抜けてしまえば莫大な資産が手に入ると。俺は投資家のその一言に夢を見て、彼に多額の金を渡した。が、やはり、当然、当たり前に詐欺だった。投資家の正体は仮想通貨バーチャルカレンシーを対象にした詐欺グループ、カレン師の一人だったのだ。



文無しとなった俺は路頭に迷いホームレスとなった。老後にこれはキツイってと言っても自業自得である。今は不法投棄された粗大ゴミの中から銅線などを取り出して生計を立てる毎日。この犯罪行為はそこそこの金にはなるが、欲は出さないようにしている。身の丈に合わない金は悲劇を生むと学んだからである。それに、俺には夢があるのだ。金を貯めて、女のヒモになるという夢が。




金本ちの若い女が余っています。もう誰でもいいって言ってます。




街中で見た広告である。併記されている番号に電話をしたところ紹介料に100万かかるらしい。現在の預貯金45万。あと55万で手が届く。静かでゆっくりとした余生を若い女とすごす。それだけのために俺は生きるのだ。さぁ今日も、銅線を回収しよう。俺のセカンドライフはまだ始まったばかりだ。

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