第3話 真実との対峙

草津は闇の中で目を開けた。そこに広がっていたのは、奇妙で不気味な風景だった。見覚えのある街並みだが、色彩が失われたかのように、全てが灰色がかっていた。建物も、道路も、人々も、全てが静かに息を潜めている。


「ここは…どこだ?」


草津は周りを見回した。道端には消えたはずの人々が無表情で立っていた。誰も話さず、ただ虚ろな目で遠くを見つめている。まるでこの世界に囚われてしまったかのように。草津はその人々の中に、ティラノサウルスの口に吸い込まれた者たちを見つけた。彼らは生きているように見えるが、魂が抜けたように動かない。


「ここは…何なんだ?」


草津は不気味な感覚を拭えず、注意深く街を歩き始めた。すると、遠くから何かが聞こえてくる。囁き声、笑い声、そして叫び声――それらが混ざり合い、彼の耳に届いた。


「助けて…助けてくれ…」


その声ははっきりとした。草津はその声を追いかけるように、足を速めた。彼の直感は、この場所がただの幻影ではないことを告げていた。ここには真実が隠されている。そして、消えた者たちがどこに行ったのか、その答えがここにあるはずだ。


---


道を進むと、突然、ティラノサウルスの顔が彼の目の前に現れた。だが、今回は一体だけだった。巨大な顔は静かに口を開け、草津を睨むように見下ろしている。彼はその恐ろしい視線に一瞬ひるんだが、冷静さを取り戻し、顔に向き合った。


「お前は何者だ?何のためにこんなことをしている?」


草津の問いかけに、ティラノサウルスの口から低い唸り声が響いた。まるでその質問に答えるかのように。そして次の瞬間、草津の頭の中に強烈なイメージが流れ込んできた。


――人類は多くの動物を滅ぼし、地球のバランスを崩してきた。ティラノサウルスはその象徴だ。彼らはこの世界に存在するべきだった。しかし、人類の愚行により、滅び去った。今、この世界に現れたティラノサウルスの顔は、その復讐として現れたのだ。


「復讐…か?」


草津は震えながらそのイメージを理解し始めた。ティラノサウルスの顔が人々を吸い込むのは、彼らがこの世から消えることで、過去に失われたバランスを取り戻すためだというのか。しかし、これは単なる自然の復讐ではない。何者かがこの現象を操っている…それは確信に変わった。


「誰かが…これを操っている…」


その瞬間、草津の背後から何かが動く気配がした。彼は振り返ると、暗闇の中から現れたのは、謎の男だった。男は薄暗い街に溶け込むような黒い服をまとい、冷たく無表情な顔で草津を見つめていた。


「お前が…この現象の元凶か?」


草津は男に向けて問いかけた。男は静かに頷き、口を開いた。


「そうだ。私は、この世界のバランスを取り戻す者だ。人類は過去に犯した過ちを償わなければならない。ティラノサウルスの姿は、その象徴に過ぎない。」


男の言葉は冷徹だった。彼は人間ではなく、まるでこの異世界の監視者のような存在だった。


「だが、お前は何者なんだ?その目的は何だ?」


草津は拳を握りしめて男を睨んだ。男は一瞬、草津を見つめ返し、次に淡々と語り始めた。


「我々は、滅びゆく世界の守護者だ。人類はこの星を破壊してきた。過去の罪を償うために、犠牲が必要だ。」


その言葉に、草津は激しい怒りを覚えた。


「だからといって、無差別に人々を消し去るのか?それが償いになるとでも?」


男は何も言わず、ただ草津を見つめていた。草津はその冷たい瞳の中に、果てしない虚無を感じた。彼は次の言葉を放つ前に、手に持っていた小型デバイスを握りしめた。それは、事前に防衛チームが作成した、異常な現象を無効化するための装置だった。


「終わりにする…!」


草津は装置を男に向けて作動させた。瞬間、強烈な光が街全体を包み込み、ティラノサウルスの顔が悲鳴を上げるかのように歪んだ。街が揺れ、風景が崩れ始める。まるでこの異世界が解体されるかのように。


「お前は…何をした!?」


男は驚愕の表情を見せたが、草津は冷静にその場に立ち続けた。


「全てを元に戻すんだ…!」


---


光が消え、草津は再び現実の世界に戻ってきた。ティラノサウルスの顔は跡形もなく消え去り、街は静かに息を吹き返していた。人々も次々に元の世界に戻ってきた。虚ろな表情だった彼らも、次第に正常に戻り始めた。


草津は防衛チームの田中と共に、現場を見渡しながら静かに息を吐いた。


「終わったな…」


田中は草津に感謝の意を述べたが、草津は無言で頷くだけだった。異常な事件は幕を下ろしたが、草津の中にはまだ一抹の不安が残っていた。あの男――そして、あの異世界は本当に消え去ったのか。それとも、まだどこかで再び現れるのだろうか。


そんな疑念を胸に抱きながら、草津は次の依頼に備えるのだった。


**完**

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ティラノホール 白鷺(楓賢) @bosanezaki92

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ