第2話 消えた者たちの行方
ティラノサウルスの顔が現れてから数日が過ぎた。都市全体は緊張感に包まれ、交通は麻痺し、街の一部は封鎖されたままだ。防衛チームは現場周辺を監視し、状況の悪化を防ごうとしているが、顔の動きは依然として止まらない。そして、あの恐ろしい「口」は、今も時折、突風を巻き起こし、人々を吸い込んでいく。
「一体、消えた人々はどこへ行ったんだ?」
草津は、防衛チームの仮設オペレーションセンターで目の前に並べられた報告書を見つめていた。消えた者のリストはすでに数十人に上り、彼らに共通点があるかどうかも調査されていた。しかし、性別も年齢も職業もバラバラで、特にこれといった共通点は見つからない。彼らがどこに消えたのか、誰も掴めていなかった。
「まるで異次元にでも飛ばされたみたいだな」と、防衛チームのリーダーである田中が低く呟いた。
「可能性はゼロじゃないかもしれない」と草津は答えた。彼はティラノサウルスの顔がまるでこの現実のものではない、何か別の力に繋がっていると直感していた。だが、それを証明する手段がない。
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その晩、草津は一人で現場を歩いていた。封鎖された道路は静寂に包まれ、巨大なティラノサウルスの顔が不気味に並んでいる。草津は近づける限界まで接近し、その異様な存在感に圧倒される。顔は動いておらず、まるで石像のように佇んでいるが、まったくの無機物とは思えない。確かに、あの口は人々を吸い込み、消し去っていった。
彼はその場に立ち止まり、しばらく顔をじっと見つめていた。風が静かに吹き、冷たい空気が肌に触れる。すると、ティラノサウルスの顔が微かに動いた。まるで草津に反応したかのように、ゆっくりと口を開け始めたのだ。
その瞬間、強烈な突風が吹き荒れ、草津は一歩後ずさった。思わず帽子を押さえる。だが、風の中に何か奇妙なものを感じ取った。何か…声のようなものが聞こえた気がした。
「助けて…」
一瞬、誰かが叫んだように聞こえた。草津は耳を澄ませ、風の中からその声を探った。だが、それはすぐに風にかき消され、再び静寂が戻ってきた。
「今のは…」彼は眉をひそめた。「消えた人々の声か?」
草津はその場に立ち尽くし、消えた者たちがまだどこかに存在している可能性を考え始めた。もしかすると、彼らはあの顔の中に閉じ込められているのではないか?異次元、あるいは別の空間に囚われているのかもしれない。そして、声が聞こえたということは、まだ助けられる可能性がある。
草津はすぐにその推論を田中に報告するために戻った。田中は半信半疑だったが、これまでの異常事態を考えると、完全に否定することもできなかった。
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翌日、草津と防衛チームは新しい作戦を立てた。ティラノサウルスの顔にさらに接近し、口の中に飛び込むような形で直接調査を行うことだ。草津はその危険な任務に志願した。もし声が本当なら、彼は自ら答えを掴む覚悟を決めた。
チームは慎重に準備を進め、あの巨大な顔に向かってゆっくりと接近していった。草津は息を整え、鼓動を落ち着かせる。口が開く瞬間を見計らい、突風に引き込まれるように足を踏み出す。
そして、次の瞬間――強烈な風が彼を捉え、彼はティラノサウルスの巨大な口の中へと吸い込まれていった。
暗闇が彼を包み込み、世界は一瞬で消え去った。
草津の意識は闇の中で漂う。彼はどこにいるのか、何が起きているのか、全く理解できなかった。だが、かすかに光が見え始め、そして彼は、見覚えのある街の景色を目にする。
「ここは…?」
草津が目を凝らすと、そこには消えたはずの人々がいた。だが、彼らの表情は虚ろで、まるで夢の中を彷徨っているかのようだった。そしてその先に――さらなる恐怖と、事件の真相が待ち受けていることを、草津はまだ知らなかった。
続く
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