第1話 出現
幹線道路沿いの高層ビル群の影が長く伸び、照りつける太陽が午後を知らせていた。道路には車が規則的に流れ、行き交う人々も忙しそうに歩を進める。平和な午後。しかし、その静けさは突如として破られた。
最初に異変に気づいたのは、車を運転していたドライバーだった。彼は前方の道路に目をやり、何か巨大な物体が現れていることに気づいた。タイヤを急に止め、驚愕した目でそれを見つめた。
「なんだ、あれは…?」
その正体は、巨大なティラノサウルスの顔。だが、頭部だけが、まるで何かの異次元から浮かび上がったように、道路の中央に突然姿を現していた。そして、驚いたのはそれだけではない。その顔は、まるで生きているかのように、ゆっくりと口を開閉し始めたのだ。
ドライバーが目を疑う中、ティラノサウルスの口が大きく開くと、次の瞬間、強烈な突風が吹き始めた。風はまるで渦を巻くように車を揺さぶり、近くにいた歩行者がその強風に足を取られ、徐々に引き寄せられていく。
「助けて!」と叫んだ女性がいた。だが、その叫び声はかき消され、彼女はあっという間にティラノサウルスの口の中へと吸い込まれ、消えてしまった。何も残らない――まるで、彼女の存在が初めからなかったかのように。
その光景を目の当たりにした周囲の人々は、一瞬呆然と立ち尽くしたが、すぐに恐怖に駆られ、逃げ出した。だが、ティラノサウルスの顔は止まらない。次々と口を開け、風を巻き起こし、無差別に人々を飲み込んでいく。
この異常事態を受けて、街の緊急対策本部が動き出した。何が起きているのか、誰にも理解できなかったが、とにかく対策が必要だった。そこで、防衛チームが出動し、現場の封鎖が始まった。
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その頃、私立探偵の草津は、自宅で新聞を読みながら、かつての栄光の日々を思い返していた。かつて名を轟かせた彼も、今ではしがない依頼をこなす日々だ。だが、今日の彼のもとに届いた依頼は、少し違っていた。
「草津さん、これはおかしな話かもしれませんが、ちょっと来ていただきたい場所があります。」
電話の向こうで、不安げな声が聞こえた。依頼者は防衛チームの一員であり、草津のかつての協力者だった。いつもの日常ではない何かが起きていると直感した草津は、すぐに現場へと向かった。
現場に到着すると、道路は封鎖され、遠くには10体ものティラノサウルスの顔が横一列に並んでいた。その異様な光景に、草津は一瞬言葉を失った。
「これは…夢か?」
だが、現実は残酷だった。人々が消えていく異常な光景を目の当たりにし、草津は本能的にこの事件に潜む謎の深さを感じ取った。
「これが何のために起きているのか、私たちには分からない。ただ、次に何が起こるかも予測できない。」
防衛チームのリーダーが草津に状況を説明するが、その言葉には焦燥が滲んでいた。草津は静かに頷き、ティラノサウルスの顔に視線を戻した。
「消えた者たちはどこへ行ったのか…」
そして、謎は深まるばかりだった。ティラノサウルスの顔が現れた理由、消えた人々の行方、そして次に訪れるであろう危機。それを解き明かすために、草津と防衛チームの闘いが、今始まろうとしていた。
続く
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