ブラッドフォールス鎌倉ーホームと車両の間は地獄の入り口?ー(万人向け)

花森遊梨(はなもりゆうり)

第1話

書き直し


「5番線ホームに集合して始発電車に乗るって言ったのにいまさら3番ホームから乗るなら昨夜何のために打ち合わせしたんだこの野郎‼︎いいか?わかったか?理解したか?だったら今すぐこっちのホームに移動しろ‼︎‼︎」


駅のホームでブチギレる夏仕様(日焼け止め完備)の少女は毎度おなじみ緑田萌葱えにしだもえぎ

レディースデー真っ盛りだ。つまり普段より機嫌が悪い、代謝が乱れて体温も上がり、気温よりも体温を高くして暑さを凌ぐアラビアオリックス状態だ!(本当だよ?)


「3番線のホームの方が早く電車が着くのに、なんで遅い始発電車に乗らなくちゃなんないのよ?」

普段より白と肌色多めの格好、萌葱よりだいぶ大人レベルが高めの20代は平山珠緒ひらやまたまお。製薬会社に勤める大人だけあって、

「昨日ライソで「どうせなら座って行きたい」とか寝ぼけたこと抜かしたお前が言うか‼︎だから遅くても確実に座れる始発に乗るって事になったのにまるっきりド忘れか?若年性認知症か?」

「お前はまだ10代のくせにその場の状況に応じて計画を変更するという最低限の柔軟性もないみたいね、誤報ひとつ認められずに米軌道艦隊にワンサイドゲームかまされたレイテ作戦指揮官の亡霊にでも憑かれててきたの?」

背中に矢が刺さった猛獣のような雰囲気から推測するに、こっちも「レディースデイ」真っ只中である。


怒りが一周して二人はスマイルプリキュ◯な現状なわけだが、ここで一人足りないことに気づくはずだ。


この鎌倉旅行、元々は緩衝材…ではなく、にいろも入れて三人で鎌倉に行く予定だった。


「熱が出てないのに咳が止まらない。さっき行った病院は申告しない限り検査をやらないタイプだからコロナではないけど今日の鎌倉はキャンセルしようと思う」

「咳を一発もしないし熱も出ないコロナ?」

「最近はコロナだって熱を出さないように気を使うからすごいよね?おまけに病院からもらえるジャルダン製薬の咳止めってすごい効き目だから」


そんなわけで鎌倉に行くのは二人だけになり、その二人ともメンタルは最悪、おまけに一番メンタルが安定した丹はシュレディンガーの風邪に見舞われ、二人は本音をぶつけ合い、キャデラックや拳をぶつけ合わない隠れマッドマックスな現在に至る。


最狂線さいきょうせん5番線。始発の電車は線路内人立ち入りのため、先頭車両が大変見苦しい状態になりつつ、約3分遅れで到着です。


始発電車の座席でいつにもまして鼻をつく鉄錆の匂いを鼻に感じつつ、スマホの画面に目を落としながら次に向けての行動の指示を平山に伝える

「平山さん、池袋で相南親宿そうなんしんじゅくラインに乗り換えるから次の電車は…で、その格好は?」


ちょっと目を離した隙に平山の夏仕様の白服にはタールのような汚れがライン状に増え、右足にはやや大きめな切り傷が走り、鮮血が流れ出ている姿になっていた。

「アンタがスマホを見てる間に電車とホームの間に落ちかけた」


前途多難である。


午後15時

鎌倉文華会館ミュージアムレストラン


・天然氷のかき氷あります。凝固した水に千円以上も払うなんて馬鹿らしい?良い品の良さとは一朝一夕にはわからないもの。

・あなたも天然氷の良さがわかるか、チャレンジしてみませんか?


「で、何でこんなところで4桁価格での氷を私たちは食っているのかしら?」

「う、何というか神とか仏とか虫さんに見放されているとしか思えないといいますか」

二人が今日口にできたものは天然氷のかき氷だけであった。


まず、最初に行く予定だったしらす丼のお店は、シラスの不漁につき、店を閉めるという潔い決断を下していた。


第二候補の釜飯のお店は、インバウンドの力を存分に受けていた。要は他も外国人を含めた観光客にコメも海鮮も食い尽くされていたのだ。


第三候補のカレー屋「キャラウェイ」は行列であり、時間が全てを解決するはずだった。


「あそこで萌葱が世界が回ると急性厨二病なのか熱中症なのかわからないことを言い出して、途中敗退を余儀なくされた」


「滅相もありません」


朝こそ、計画無視という平山の落ち度があって優勢であったが、今回こそは体調管理不行き届きという完全な落ち度、さすがの萌葱も弱々しくならざるを得ない。


それから意識が切れるか切れないかの萌葱を引きずって涼しそうな鎌倉文華会館ミュージアムレストランに避難し、日光と天然氷の力で4桁の金額を誇るかき氷の力で現世に引き止められて今に至る。


現在、外気温は37℃という全くもって生身の活動には不向きな気温になり、15時という神や仏にとっての定時を迎え、今更鶴岡八幡宮まで行ったら熱中症で死んでむしろ神の国にご招待されかねない時間となってしまった。


「THE・鎌倉行き損ね」



相南親宿そうなんしんじゅくライン、到着しました。お乗りのお客様は足元にお気をつけてください。


無念のうちに戻ってきた鎌倉駅のホーム。

漠然とした憧れこそあるが、実はいまだに乗る機会に恵まれない江ノ電の建物が電車の窓越しに見える。乗客は自分と平山以外誰もいない。



突然、相南親宿そうなんしんじゅくラインの天井が急上昇し、左足に鋭い痛みが走った。



片足が電車と線路の隙間に引き摺り込まれたのだと気づいた時、萌葱の右足、両腕を除いたバストより下は全て隙間の下だった。みんな大好きI字バランスの格好でホームと列車の隙間に差し込まれたような状態だ。


相南親宿そうなんしんじゅくライン 間も無く発車いたします。お乗りのお客様はお急ぎください


やむを得ない遅延でも乗客が全員がナックルダスターや棍棒をを装備し、駅員と桶狭間の合戦を繰り広げかねないほどの怨嗟と怒りの声が渦巻くこのご時世、非常時に押してもネットが炎上する非常停止ボタンは自動的に押されるようになどなっていない。


相南親宿そうなんしんじゅくライン 間も無く発車いたします。走り出すなら今が最後のチャンスです


咄嗟についた左手は鞄ごと線路の隙間に引き込まれた。


ードアが閉まります、命の惜しくない方は速やかに目についた電車に駆け込んでみてください


命の刻限はすぐそこまできていた。

萌葱は左腕で引っ張り出した鞄を車内に放り込み

右腕を車内を、左腕でホームを掴んで線路に落ちかかった胴体を力づくで引き摺り出す。いきなり全開にされて感覚が喪失した股関節を殴打して無理やり感覚を呼び戻し、車内に向けて全力で転がり込んだ


その直後にドアが閉まった


「隣の席が空いてるよ、この時間にこの空き具合は中々珍しい…それでもあえて立ってるならためはしないけど」

スマホを注視している平山は一部始終を全く目撃していなかった様子だった。


この給与生活者は私が列車とホームの隙間に落ちてそのまま列車が発射し、人間が30トンの鉄塊にバラバラにされ、発車メロディがホーム下から響く私の悲鳴という一大心霊スポットと化す瀬戸際だったことなど一生知らずに過ごすのだろう。


お盆前の鎌倉、汚れた血を足から流す良い機会になったと言わざるを得ない。

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ブラッドフォールス鎌倉ーホームと車両の間は地獄の入り口?ー(万人向け) 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224

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