第11話 2つ目のダンジョン攻略を終えた(?)兄妹

「———……もう良いですか……っ?」


 如何にも私怒っています、と言わんばかりに僅かに怒気を孕み、酷くむくれた絵美の声が後ろから聞こえてくる。


 確かにあんなに意気込んでいたのに、その気概を削ぐような行動をしたのは俺達が悪かった。

 だが、こちらもあの時はちょっと自制というか理性が呼吸をしてなかったのだ。

 もはや無意識の内に駆け出していたと言っても過言じゃない。


 そんな状況分析をする俺はというと。


「凛音、そろそろ時間だぞー」


 ゴブリンジェネラルの攻撃範囲ズカズカと入り込み、半身を僅かに傾けて斧を、1歩下がって足払いを———あらゆる攻撃を避けながらカメラを構えるのを止めて凛音に話し掛けた。

 凛音は俺以上に撮影にのめり込んでいるが……相変わらず惚れ惚れするような身体捌きでゴブリンジェネラルの攻撃を余裕を持って避けている。


「えぇ〜〜もう?」

「そろそろ絵美の堪忍袋の緒が切れちゃいそう」

「それはヤバいねー」


 ああいった大らかな人は怒らせると手が付けられなくなることが多いのだ。

 下手したら2度と口も聞いてくれないかもしれない。


 流石にそれは嫌だよ。

 折角東京に来てからの初めての友達だしね。


 ということで、そろそろ退散しよう。


「悪いな、ゴブリンジェネラル様。選手交代させてもらうわ」

「くっ……私達も生きるため……ごめんね、ゴブリンジェネラル様」

 

 俺も凛音も惜しむように言葉を漏らしつつ、ゴブリンジェネラルの攻撃の間隙を狙って素早く後ろへ飛ぶ。

 ひとっ飛びで音もなく絵美の隣に着地すると、2人同時に全く同じ行動に出た。



「「———申し訳ございませんでした、御主人様マイロード」」

「ちょっ、え!?」



〈マジかww〉

〈wwww〉

〈いっそ堂々としてるwwww〉

〈これはやり慣れてるなww〉

〈う、美しいなぁ……〉

〈潔いなww〉


 そう、日本人式最上級謝罪姿勢———土下座である。


 ギャラまで貰ってるのに、思いっ切り配信をかき乱したのだ。

 流石に絵美も怒りより戸惑いを感じているようだが、これは俺達なりのケジメ。

 もちろんギャラを減らしてもらうが……ちゃんと謝っておかないと後々の関係に支障が出てしまいそうだから。


 そんな意図で土下座を遂行した俺達だったが、頭上から絵美の焦ったような驚いたような声が降り掛かった。


「わ、分かりましたからっ! 分かりましたから土下座は止めてくださいっ! それにことがどこか分かってますか!?」

「「撮影会場ボス部屋」」

「建前と本音が逆ですぅぅぅぅぅ!!」


 何て嘆きつつも、ボスにやられるのではなく炎上しそうだから起こそうとしていることを気にしている辺り、流石D級覚醒者だと思う。

 一応F級ダンジョンにE級モンスターが現れたら結構危ないらしいからね。


 因みに彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。

 その姿に罪悪感を感じて目を逸らすと……どうやら凛音も俺と同じことを感じたらしく、それとなくスッと顔を背けている。

 しかし直様お互いに目を合わせると。


「絵美ちゃん、実は俺魔法めっちゃ好きなんだよね。それはもう剣とかがゴミに思えるくらいに! 何ならゴブリンジェネラルなんかよりよっぽどみたいですッ!!」

「私も私も! 私、魔法は実際で見たことないんですよね!! さぁさぁ絵美ちゃんお願いします!!」


 全力で煽てることにした。

 とにかく絵美の周りでわちゃわちゃ群がり煽てに煽ててるのだ。


〈露骨な機嫌取りで草〉

〈wwwwww〉

〈手のひらくるっくるですね〉

〈とりあえず調子いいなww〉

〈ジェネラルがめっちゃ困惑してるやんww〉

〈ジェネラルが現状のカオスさに動揺して攻撃できてないの草〉


「「———絵美ちゃん、是非とも魔法をお見せください!!」」

「分かりました! 分かりましたから頭を上げてください! ほら、行きますよ!」


 俺達が90度まで頭を下げれば、テンパったまま杖を振り翳し———。





「———【大炎球フレイムボール】!!」


 



 杖の尖端から1メートルを裕に超える魔法陣が現れ、そこから直径1メートルほどの真っ赤な炎球が飛び出した。

 飛び出た炎球は一直線にゴブリンジェネラルへ向かい……。


 ———ドガァアアアアアアアアンッ!!


 ゴブリンジェネラルを呑み込んだ瞬間、一気に膨張して大爆発を引き起こした。

 もちろんその爆風は人間など容易く吹き飛ばす威力で……。



「絵美ちゃん絵美ちゃんマジで威力は考えてええええええええ!!」

「おにぃぃぃぃぃにょわぁあああああああああ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」



 俺達は攻略完了と共にダンジョン部屋を締め切る壁が消えたのもあって、そのまま吹き飛ばされたのだった。

 

〈きょ、今日は凄かったなぁ……〉

〈普通に最後の最後まで爆笑www〉

〈こりゃ伸びますww〉

〈こんな終わり方する配信者おらんてええええええ!!〉

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ダンジョン初心者の天才兄妹が、ただモンスターに目を輝かせて無双する話 あおぞら@書籍9月3日発売 @Aozora-31

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