第12話

 たぶん、彼女は最初からそういうひとで。それは、これからも変わらない。

 だからといって、彼女を変えようとは思わなかった。そういうものなのだから。そういう彼女を好きでいればいい。


「血だらけでうつ伏せはいやだよ。抱き起こすとか無理」


「大丈夫だって。見ててよ。大雪降らせてやるから」


「夏ですけど」


 予報は普通に晴れ。


「蚊に血を吸われないようにね?」


「いやぁそれは分かんないなぁ。守ってくれないとなぁ」


「うん。すぐ帰ってくるね」


「いや買い物も頼もうかなぁ」


「買い物は一緒で。あぁ蚊が不安」


「すぐ帰ってくるしかないね。いってらっしゃい」


 気をつけて、とは。まだ言えない。


「行ってきます。駅前の哨戒だから。蚊が出たら駅前まで」


「はいはい」


 あ。


「忘れ物してるよ」


 投げ渡す。


「ありがと。行ってくるね」


 昨夜引きずり込んだときに落ちたらしい。

 彼女のライター。

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彼女のライター 春嵐 @aiot3110

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