第11話

 そこそこ暗い部屋。

 時折、ベッドに寄りかかった彼女のライターだけが光を灯す。かちっ、という音。


 ライターの灯りに照らされる、彼女の瞳。全てを吸い込んでしまいそうな、黒。この一瞬。ライターの灯りが閉じられるまでの、一瞬の。彼女の瞳。この瞬間に、最も彼女の魅力を感じる。どうしても死に向かって突っ走ってしまう女の。極限までに研ぎ澄まされた瞳のいろ。


 こちらに配慮したのか、彼女はライターを閉じた。


「まだ起きてますよ。どうぞライターを点けていてください」


「いいよ。もう寝る」


 そういう彼女を、ベッドに引きずり込む。完璧な体重移動。


「酒は。呑まないんですか。下着は。投げ捨てないんですか」


「ごめんってほんとに」


 彼女を抱き枕にして、寝る。柔らかい。


「わたしでいいの、ほんとに」


「なにが」


「わたし。ずっとしにたいのに。たぶんこれからも。しぬまでずっと」


「いいですよ、べつに」


 彼女の、ちょっとだけ、泣く音。


「一緒にいたい。あたしも」


「これで朝起きていなかったら、殺すからね?」


「いやだしにたくない」


 いなくならないように、抱き枕と化してる彼女をしっかりとホールドする。


「ばかだな。あたしは」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る