第10話

 ライターを、点ける。煙草とか吸ったことないけど、とりあえず点ける。


 光に照らされる、わたし。


「あたしの過去の話、してもいい?」


「どうぞ」


 めたくそに若かった。若いくせに背伸びして、煙草とか吸ったら大人になれるって思って。意を決してライターを買って。火を点けて。


「で、その瞬間に記憶を食われた」


「年上のふりしてる、若い女ってことか」


「返す言葉もございません」


 酒は好きじゃない。洗濯も普通にできる。これまで殺してきたものを思い出してしまうから、料理はできないけど。それ以外はできる。


 ライターの灯り。

 この灯りみたいに。一瞬で命が閉じればいいのに。綺麗に、なにひとつ残さず。ただ消える。それができなくて、まだずっと、殺し続けている。

 彼が眠ったのに気付いたので、ライターを閉じた。そこそこ暗い部屋。理解されたいとも思わないし、理解する気もない。それでも、彼の隣にいる矛盾。


「ばかだな、わたしは」


 しにたいのに。まだ彼の隣にいたい。

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