第39話

「そういうことなら、早く言えよ閂様。なぁ、海里」

「ええ、そうですね。絃様に言い淀まれると少し寒気が走りますから」

 海里も八尋と同じように悪戯な笑みを浮かべた。

「あはは、ごめん」

 恥ずかしさを隠すように笑うと、八尋が静かに席を立った。

「絃は、百目鬼惣が妖の狂暴化と、幽世への迷い人増加に関わっている核心を得たいんだろ。けどな、奴さんは姿を隠すのが旨いはずだ。そう上手くはいかないかもしれないが、いいか?」

 八尋は真剣な表情で呟いた。

「わかってる。けど、今はこれが最善だと思うから、できる範囲でやって欲しい。頼んでもいいかな?」

「当然、引き受けた」

 八尋は、懐から扇子を取り出して胸元あたりで扇子を広げた。

「情報を掴んだら知らせる」

「わかった。任せたよ」

 これで、百目鬼惣の動向を掴めることを願いながら、屋敷に帰ろうと踵を返した。

「それと、お前に言いたいことがある」

 八尋に呼び止められて、後ろを振り返った。八尋は、ゆったりと歩きながら、絃の前にやってきた。

「俺の管轄外の鬼火や提灯お化けたちが、お前に余計なことを言ったみたいだが……。ここではっきり言っておいてやる。俺も海里もあの時、お前に負けたからしぶしぶ協力しているわけじゃないぜ?俺も海里も、お前が気に入ったから協力しているんだ。恩を仇で返す気なんかねぇから安心しろ。そんなことをしたら月の奴に、殺されちまうからな」

 八尋の言葉に賛同するように海里が首を何度も縦に振っていた。

「聞いていたの?」

 八尋からそんなことを言われるとは微塵も思っていなかったから、思わず目を見開いた。

「まぁ、偶然な。俺の鬼火たちが丁度近くにいて伝えに来たんだよ。まぁ、そんなことはどうでもいい。とにかく、俺はお前について行くだけだ。そこ、忘れんなよ」

 八尋は満足げに笑みを浮かべていた。それは海里も同じだった。

 心のどこかで、鬼火と提灯お化けの言葉を気にしていたけど、気にする必要なんてなかった。こんなにも頼もしい二人が後ろにいてくれているんだから。凄く心強く感じる。

 鬼火と提灯お化けが言うように、八尋と海里は昔大悪党だった。でも、二人は当の昔に改心している。向き合うべきは、過去の彼らではなく今の彼らなんだ。そして、今の彼らが絃を信用して信頼を寄せてくれている。それに答えない訳にはいない。

「二人とも、ありがとう。よろしく頼んだよ」

 嬉しくて二人に笑いかけると、二人も笑ってくれた。

 少し名残惜しいけれど、絃は屋敷へ戻ることにした。

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