第14話 世良田二郎三郎、人手を集める
「なっ……」
「荒木村重の娘……!?」
永井直勝と伊奈忠次が目を見開いた。
織田家の者がやってきて逃げるのだから、何かあるとは思ったが、まさか荒木村重の娘だったとは思わなかった。
「姫の正体が知れては困るゆえ、それがしの娘ということにしておりました。貴殿らの厚意につけ込むことになってしまい申し訳ない……」
郡宗保が頭を下げる。
一歩間違えば、二郎三郎らも荒木村重の一族を匿ったとして、処罰を受けかねなかった。
結果的に危険な橋を渡らせてしまった負い目があるのだろう。
二郎三郎がなんてことのないように笑う。
「いいってことさ。何としても主君の娘を守ろうって気概を褒めこそすれ、なぜ怒る必要がある。……天晴だぜ、あんたの忠義」
「かたじけのうございます……」
頭を下げて礼を述べる郡宗保。
そんな中、荒木村重の娘である華が口を開いた。
「まことに勝手ながら、世良田様にお願いがございます」
「いいぞ」
「実は……………………えっ?」
本題に入ろうとして、華が呆気に取られる。
「あの、よろしいのですか? まだ何も話していないというのに……」
「うちで匿って欲しいんだろ? 別に構わねぇぞ。今さらお尋ね者が一人や二人増えたところで変わらねぇさ」
「えっ!? まさか……他にも我が一族の者を匿っておられるのですか?」
「いえ、そういうことではなく……」
間に入ろうとする永井直勝を遮り、二郎三郎が続ける。
「俺だ、俺。お尋ね者は。……正しくは、死んだことになってる身、ってところだがな。だから、あんたら二人が増えたところで、今さらどうってことはねぇよ」
もっとも、死んだことになっている二郎三郎と、現在進行系で追われている二人とでは、明らかに立場が違う。明らかに、二人を匿うことで二郎三郎の背負う危険が大幅に増えることは間違いない。
とはいえ、そのようなことは二郎三郎にとって些細な問題であった。
「なぁ、それよりあんた、荒木村重のところに仕えたんだろ?」
「はっ、はぁ……」
郡宗保が力なく頷く。
「じゃあ、他の荒木の一族や家臣に連絡はつくか?」
「ある程度潜伏の目星はついておりますゆえ、拙者の名を出せば、あるいは……」
「いいね。そんなら、荒木の一族は俺が丸々匿うって連絡してもらっていいか?」
思ってみない突飛な申し出に、郡宗保が目を丸くした。
「別に構いませんが……よろしいので?」
「ああ、構わねぇぞ」
「いえ、世良田様ではなく、後ろのお二人の方が……」
見ると、永井直勝と伊奈忠次が鬼の形相を浮かべていた。
「いったい殿は何を考えておられるのですか! 荒木の一族を匿おうだなんて……」
「しかも、一族を丸々匿おうなどと、どう考えても危険すぎますぞ!」
ただでさえ、荒木の一族を匿っては、二郎三郎の正体がバレるかもしれないのだ。
一人二人ならまだしも、ありったけ匿っては、二郎三郎の正体がバレる危険性が跳ね上がってしまう。
そのため、永井直勝と伊奈忠次は猛抗議したのった。
「なあ、覚えているか? さっきの話……」
「さっきの話?」
「すべての大名を相手に商いを始めようなどという話にございますか?」
伊奈忠次の問に二郎三郎頷く。
「本願寺のおかげである程度資金は貯まった。……となりゃ、次に欲しいのは人材だ。諸大名との交渉役、金や品を扱う官吏。そういう人材はいくら居ても足りやしねぇ。……だが、ここに来て荒木の一族が手に入るって言うじゃねぇか」
「まさか……」
「荒木村重の一族家臣をまるっと召しかかえる。……そうすりゃ、一気に人手不足は解決だ」
二郎三郎の計画に、伊奈忠次が舌を巻いた。
荒唐無稽で壮大な計画。しかし、どこか筋が通っているのも確かであった。
「あの……」
郡宗保が口を開いた。
「それでしたら、淡路水軍にも声をかけてもよろしいですかな? 近頃は織田と毛利の水軍に押されておるゆえ、きっと我らの力になってくれるかと」
「いいねぇ、ぜひ声をかけてくれ」
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