第30回 小さな幸せ お題:ブロッコリー
木製のテーブルの上に、白い小皿が一つだけ置かれている。そしてそのお皿の上には、みずみずしく輝く緑の森。幹すら緑色をしているその森は、幼馴染が差し出したその料理は、どこからどう見てもブロッコリーだった。
「ブロッコリーってさ」
「野菜の大様だろ? 知ってるよそんくらい」
「ちぇ、つまんないの」
幼馴染はエプロンを揺らしながら、口を尖らせる。
もう人生の半分ほどを共に過ごしたことになる彼女は、この度、高校生になってまでブロッコリーが苦手な俺の為に料理を振る舞ってくれたのだ。
「料理部部長の癖にブロッコリー食べられないとか恥ずかしいから」
と、彼女は言う。部長になったのも実際半ば強制的なものだったし、食べられない物の一つや二つあってもいいじゃないか、と俺は思った。
「いいだろ別に。元々スイーツ作れるようになりたくて料理部入っただけなんだから」
「この甘党め」
「いっつも美味そうに俺のチョコケーキ食う癖によく言うぜ! 知ってるぞ、お前俺のスイーツ食い過ぎて体じゅ……」
幼馴染とは言え流石に女の子相手に体重の話題はよくなかったらしい。言葉を全て言い切る前に綺麗な右ストレートによって意識が一瞬吹き飛んだ。
「すいません。ありがたく食べさせていただきます」
「よろしい」
俺がそう言うと彼女はそれで納得したようだった。フンス、と鼻を鳴らしてから、俺の目の前に置かれたブロッコリーに手を向けた。
「どうぞ」
「いや、あの」
「なに? 文句あんの?」
「これ、ブロッコリー茹でてオリーブオイルかけただけにしか見えないんだけど」
それに対して俺は目の前に置かれたブロッコリーを指差す。みずみずしいブロッコリーに、半透明の黄色い液体がかかっている。それだけだ。
「だけってなによ、だけって。それ言うならクレープだって生地混ぜて焼くだけでしょ」
「まぁ、確かにそうなんだが……」
具材を用意するのも大変なんだぞ、というのは野暮な気がした。
ブロッコリー。モサモサとした食感に、森をそのまま食べているような味。マヨネーズをかけてもその奥から溢れ出る独特の味。それが、茹でてオリーブオイルをかけただけで無くなるのだろうか。それとも、ただオリーブオイルをかけただけではないのだろうか。
しかしせっかく幼馴染がブロッコリー克服のために用意してくれた機会。無碍にするわけにもいかない。
ゴクリと唾をのみ、覚悟を決める。
確かに高校生になってまでブロッコリーが食べられないのは恥ずかしいと思っていた!
克服は、今この時!
「いただきます」
パクリと口の中にブロッコリーを放り込み、咀嚼する。
しばらく味を確かめ続けて、「あ、美味いわ」と自然にそんな声が出た。
「正直私は野菜とかって、生で食べるものじゃないと思うのよね。トマトとかも、生はダメだけど料理すれば食べれるって子多いし。君もそれなんじゃないかと思って」
「うめぇ、どうやって料理したんだこれ」
「ちょっと、聞いてる?」
「聞いている聞いてる。確かに生のブロッコリーに忌避感あって食わず嫌いしてた」
「うん、知ってる」
呆れた様子でため息をついた幼馴染は、けれどどこか安心したような笑みを浮かべた。
「で、どうやって作ったんだこれ」
「茹でて、オリーブオイルに漬けて、ガーリックとコンソメで焼く」
「結構調味料入れてんな」
「そうでもしないとあの独特な味残っちゃうからね」
「それもそうか」
ウンウン、と納得しながら頷いていると、彼女はブロッコリーのオリーブオイル炒めを更に小皿に盛り付けた。
「ブロッコリーは森の王様って言われるくらい栄養たっぷりだからね。一杯食べてね」
「聞いたよそれは」
「後はそう、ブロッコリーの花言葉は、小さな幸せだからね」
「お前の料理食えることに感謝しろってか?」
「そこまでは言ってないけど……」
「いや、実際感謝してるし、お前のブロッコリーなら毎日食えるよ」
俺の言葉に、彼女はプイと顔を背ける。これは俺も何かスイーツを作ってお返ししなければならないだろう。
俺の周りには、きっとブロッコリーの花蕾のように、小さな幸せが詰まっている。その幸福を少しずつ返そうと、そんな事をふと思った。
VRCでもらったお題で短編小説を書くだけ レスタ(スタブレ) @resuta_
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