Chapter 2-5
「え……。ごめんなさい、私、勉強があるので」
こっちが「え?」だよこんちくしょう!!
私は膝から崩れ落ちて、床を叩いた。今度は本当に叩いた。
だってまさか速攻で断られるとは思ってなかったもん! あなた普通の女の子でしょ!? ノーとは言えない日本人でしょ!? ホワイ!?
「いいからまずは落ち着きなさい。ごめんなさいね、三枝さん。この子、ちょっと頭がアレで」
「アレって何!?」
「よーしよし、どうどう祈里」
「拓篤ももう手慣れちゃったね」
拓篤君になだめられて、私はだんだん落ち着きを取り戻していく。あっ、そこ……! 拓篤君ってばお上手……!
……っと危ない。流石に年齢制限だけは勘弁だぜ。
さて、状況を説明しようか。
私たちは早速、特進クラスにいる筈の三枝さんの元を訪れた。
そこには私の予想通り、三枝未恋その人がいた。当たり障りのないボブカット。ちょっと片目が隠れそうになっている前髪がワンポイントだ。美少女ではあるけれど癖がなく、個性的な脇役が盛りだくさんな世界では間違いなく埋もれそうになる、ある意味主人公らしい外見。
ビジュアル設定を寸分違わずに実写化したかのようなその姿に、私は一発で彼女が三枝さんなのだと理解できた。
早速ではありますが、初めましてのご挨拶と自己紹介を済ませまして――からの勧誘で、冒頭に至るという訳だ。
「色々言いたいことはあるけれど、とりあえず……特進クラスの子が部活をやってる暇があると思ってるの?」
「ぐはっ!!」
ええい、かくなる上は切り札・「せめて名前だけでも」を発動するしか……!
と、入部届を差し出そうとした時だ。
「えと……。本当に済みません。勉強もそうなんですけど、ただ、私はもう部活をやる気はないので……。済みません」
しおらしく、しかしはっきりと大きく頭を下げた彼女に、私は動きを止めて二の句を継げなくなった。
そっか。部活をやる気がない、か。
すとん、と。音が聞こえてきそうなくらい、私はすんなりと納得してしまった。
「じゃあ、仕方ないよね」
「はい……。えと、その代わりと言ってはなんなんですけど」
三枝さんは右手を差し出してきた。
「私、編入生で知り合いもいなくて……。よかったら友達になってもらえませんか?」
屈託のない笑みを見せる彼女は、まさしく物語の主人公だった。なるほど、彼女なら確かにあれだけの男性諸兄から言い寄られるのも理解できる話だ。
だからなのかは分からないけれど。
私は、その手を取ってはいけないと思った。
【長編】悪役令嬢・幸宮祈里は平々凡々とした生活を送りたい。【連載中】 椰子カナタ @mahonotamago
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