Chapter 2-4

 新年度が始まり、私たちは高等部の一年生になって数日がたった。

 しかしそんなまだまだめでたい空気の中だというのに、私たちベルマーク部はとある危機に直面していた。


「新入部員が……来ない!」


 私は両手で机を叩く真似をする。実際に叩いてはないよ? うふふ。

 それはともかく、つまりそういうことなのだ。我らベルマーク部の部員は現在四名。この白凰学院において、部として成立する為には五名の部員が必要であるからして、このままでは廃部は必至……!


 ちなみにお兄様は一昨年に卒業したので、去年も同じ状況だったのだけれど、実は本間さんの名前を一年間の期限付きで借りて凌いだ。

 最悪、また本間さんに泣いて頼めばいいとも思ってはいるのだが、それは本当に最終手段だ。今年こそは、まともな新入部員を見つけなければ。……それに、今度弱みを握られたら何を要求されるか分からん。この案は忘れたことにしておこう……!


 というわけでこうして作戦会議を開いているのだが、状況は芳しくない。


 何を隠そうこの部活、近寄り難すぎるのだ。いや、依頼は去年もちゃんと来てたよ? 活動に支障はないんだけど、そういう意味じゃなくてね。


「しかし、やはり地道に勧誘を続けるしかないんじゃないか? 知り合いにももっと声をかけてみよう」


 と、正攻法を訴える拓篤君は、高一になってすっかりとこう、逞しい感じのイケメンに成長していた。ていうかオーラが半端ねぇ。まぶしい、まぶしいよ拓篤君!


「でも、それで去年も集まらなかったんだしさ、もっと面白いことやってみないと」


 勧誘よりも自分が楽しむこと優先っぽい発言をする聖護君は、年相応に成長しつつも、あどけなさの残る童顔で、こちらも大変すばらなイケメンとなっていた。この惚れてなくても庇護欲そそられる感じが恐ろしいぜ……!


「あのねぇ、聖護……。私たちの活動内容で何するつもりなのよ」


 純花は少し髪を伸ばして、かわいらしく成長していた。かつては校内イケメン女子ダントツ一位だったのが、かわいさまで手に入れてもう無敵かよ……!


 さて、お気付きかと思うが、ここにわたくしこと幸宮祈里が加わり、まったくもって勝てる気がしないメンツのできあがりである。これは寄ってこねぇわ。


「それより、せっかく今年は編入生と同学年なんだし、その人たちに声をかけてみない?」


 ほう。純花の案に、私は胸中で唸る。確かに、同い年なら気軽に話しかけるいい機会でもある。それにまだ、この学院のことをよく分かっていないピュアな編入生諸君なら、今の内に引きずり込めるかも……。


「あ、祈里ちゃんがまた悪い顔してる」

「祈里、倍増しで恐くなるから、その顔やめなさいって言ってるでしょう」

「えっ? そ、そんな顔してないよー。やだなぁ、もう」


 思わず顔に出てしまったのを笑ってごまかしつつ、私はふと、脳裏に浮かんだとある人物について考え始めた。


「……三枝未恋」


 あ、いっけね。ぽろっと口に出しちゃった。

 まあいいや。何のことか分からず唖然としているみんなを余所に、私は彼女について考えを巡らす。


 三枝未恋とは、『恋君』の主人公のデフォルトネームだ。非常に成績優秀で、特待生としてこの白凰学院に編入してくるところから、『恋君』の物語は始まる。つまり今、この学校に彼女はいるということだ。


 あまり原作については考えないようにしていたから、ようやく気付いたけれど、これはチャンスなんじゃないか……?


 私はゲームを通してでしかないけど、彼女の人となりをよく知っている。わざわざこっちから近付くのは危険かもしれないけど、彼女はあくまで普通の子だ。それにテンプレ悪役令嬢転生ものなら、主人公キャラといい関係が築ければだいたい上手くいくもんだ。


 ふっふっふ。いいじゃないの勝算は十分にあるぜぇ……!

 待っとけや三枝未恋ぃぃぃぃ!! 絶対ぇ部員にしてやるかんな!!

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