Chapter 2-3

 寝起きはすこぶる快調だった。

 なんか夢を見た気もするんだけど、実はあんまりよく覚えてない。


 ま、そんなことより寝起きの体操と、あとは鏡の前で笑顔の練習練習!

 今日までずっと続けてきたこれも、だいぶサマになってきたと思う。相も変わらず、私の人相は「恐い」に分類されるものだけれど、愛想よくを徹底してきた結果、怖がられることは随分減ってきた。


 使用人の水戸さんが用意してくれた服に着替えて、身だしなみを整えると、朝食へ向かう。

 朝食の席では、父が新しいプロジェクトを始めるらしく、緊張しているのを母が呆れ顔で宥めていた。それを眺めながら私は苦笑する。


 原作の父や母がどんな人間だったのかは分からない。きっと、テンプレ悪役令嬢の両親なのだから、さぞ憎たらしいキャラだったに違いない。

 けれど、今ここにいる二人はそんなイメージとはかけ離れた、私の自慢の両親である。


 父は会社のトップに立つ高いカリスマ性を放つ凛々しさを持っていると同時に、結構緊張しいでかわいらしい一面もたくさんある、面白い人だ。

 母は厳格で流石は私の母だけはあると言えるような美貌の持ち主であるけれど、社長夫人であることを鼻にかけることもなく、意外と面倒見もいい良妻である。


「……と。そう言えば、今日は入学式だったな」

「はい、お父様。とは言え、私にとっては単なる進級とあまり大差はありませんわ」

「まあそれでも、新しいスタートラインであることに変わりはない。私は仕事で行けないからな。今言わせてもらおう。おめでとう、祈里。これからも君らしく、頑張りなさい」


 記憶を引き継いで転生し、三年。私は、二人が両親でよかったと、心からそう思っている。

 ……ちょっと、心がむずがゆいけどね!


 さて。それでは登校である。水戸さんの運転する車に乗って、学院に向かう。いやあ、敷地は同じだけど、今日から通う校舎が変わるからなぁ。わくわくもんだぁ! ……あ、別に新しい校舎ができたとかそういうんじゃないからね、一応。

 桜が舞い散る光景を窓から眺めながら、私は新たな季節と、新たな節目の訪れを目いっぱい感じる。


 学院に到着し、私は校舎を見上げる。以前まで通っていた校舎は、どこか遠く見える。そして新たな校舎が、私をどっしりと待ち構えているような感じ。

 立ち位置がちょっと変わるだけで結構変わって見えるものなんだなと、感慨深さを覚えながら、私は今日から通う、高等部の校舎へ向けて歩き出した。


 と、いう訳でさて、満を持して言う時がきました!

 私、幸宮祈里は、今日から高校一年生になります!

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