Episode.2...闇の授与.

 教室の外壁は死んだ水槽に囲まれていた。

 水槽には、サメも鰆も鯵も共存する平和な世界だった。皆楽しそうに回遊していて、一挙にこのまま時を止めてしまえば、彼らはどうなるのだろう、と王城は思った。

 水槽の画面が突然、将棋の盤面に切り替わる。薄暗い時を閉じ込めたような青の空間から、全体は黒と白線によって囲まれていた将棋の駒で並べられていた。

「今から勝負をしよう―――、出来る限りレガリアで増幅できるのは己の読みであって、他者やAIの読みに対して、使うことはできない」

 我々は―――、と斎藤は告げる。絶対的宿命を生命の責任として課された運命と言う名の集団だった。俗にいうプロ棋士と言う職業に立ち向かう集団は必ず何かしか飛び道具を持っている。

 故に斎藤は炎の紋章に手を触れる。紋章は特に悪魔の願掛けであって、相手と私の時間を永遠に引き延ばしていくようにと祈るだけのバッジだ。

「王城君、coffeeでも飲もうか」

「今はそんな気分にはなれない」王城は言った。「今は針の落ちる音さえ聞こえそうだ」

「そんなことだったら、昏睡して眠りにつくかもしれない。永遠に対局が止まらない内に飲んでくれ、君が昏睡して指せなくなったら困る」斎藤はcoffeeを差し出す。三つカップがあった。

「あとの一つは?」カップを王城がとる。

「桜川さん」そういうと、桜川さんは一番後ろの席でピンク色と青のメッシュの髪を触っていた。制服というには、鮮やか過ぎたダークブラウンのバッグに、青のコートと白のチノパンツ。チノパンツのポケットには、炎の紋章をキーホルダーにしていた。

「はい」桜川さんは白く透明な声で答える。夕焼けに染まる教室が一変して、真っ白な空間へと姿を変える。目の前にはモニター。黒の画面に白線の枠と駒のデザインは相変わらずだった。

「君の頭脳を食べよう」斎藤は突然この世とは思えない口をきいた。桜川さんの炎の紋章を頭に付けた。「君の思考の内、成長するだけの伸びしろと素地を奪い取る。いつだって君が勉強し、詰め将棋を行ってくれて棋譜並べを行っている。誰よりも高速で。しかし、幼稚な棋譜ばかり並べている。これは―――過去の私の棋譜だね?」

「はい。急所のリカバリが参考になります」

「丁度あの時の思考は私でもよくわからなかったんだ。参考になるよ、これは」斎藤は言った。「memorize at random.これでいい」

「聖なる土地をイメージしたこの空間で、私は一億局のメモリがある。全て過去のレガリアとの使用による残酷で死んだ魚のような目で視た歴史だ。私は決して、君に怒りや嘆きをぶつけに来た訳じゃない。単に将棋そのものを壊したいという破壊衝動を君にぶつけよう」

「いつになく饒舌なようだが、俺は現場の対局を知っている。覇王の圧を掛けることが出来る。俺が空を睨み、手を床につき、炎の玉璽を頭に付けたとき、覇王は覇王の傷を残し、君に預けに行くよ」

「楽しみだ―――、自由に抗え、空に浮かぶ思考よ、飛べ。さあ、沈んだ空気によって始めよう、この死闘を」

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〈Novels.〉Dead Ends... Dark Charries. @summer_fish

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