第15話 ざまぁ
車から一人の警察官が出てきた。
「どうしたんですか? 一体何の騒ぎですか。住民から通報が有りましたよ」
警察は一禾の顔を見た。
「血が出ているじゃないですか!」
「この人にやられたの」
一禾が鈴木母を指さした。
「え? え?」狼狽する鈴木母。
「お、俺もスマホをかち割られた」羽岡が便乗した。
警察官は鈴木母に向き直った。
「ちょっと、お話をうかがえますか」
ぷるぷる震える鈴木母。
「きえぇえええええええええええ!!!!」
突然、鈴木母が警察官の胸倉をつかみ上げて突き飛ばした。
警察車両からもう一人の警察官が飛び出してきた。
「私は悪くない! 悪くないのにそいつらがー!!」
「落ち着いてください」と警察官。
「アンタも$%&’()!!!!」
鈴木母は声にならない声を上げもう一人の警察官にビンタを食らわした。
次の瞬間取り押さえられる鈴木母。
「障害と公務執行妨害で現行犯逮捕する!!」
車に連行される鈴木母。
「母さん??!」
鈴木歩が家の中から出てきた。
俺は言ってやった。
「お前の母親は暫く帰らないよ。自分の不始末を母親に拭わせていた罰だ。お前も天罰が下るよ」
翌日、学校で事情聴取を受けたが、鈴木家の防犯カメラにバッチリ映し出されていた映像と皆の証言が一致ししたため直ぐに解放された。
そして、自宅謹慎中の啓太郎を除いた文芸同好会のメンバーは事情聴取のあと大倉先生と一緒に校長室に行くように言われた。
*** 校長室 ***
校長先生が言う。
「いやぁ、吉井君がナイフで鈴木君を切り付けたって言うから、あわてて出張先から帰って来たよ」
校長先生は小柄で、吉井よりもさらに小さい体をした白髪のおじいちゃんである。
「事情はどうあれ、ナイフは良くなかったですな。」
湊が話をぶったぎった。
「校長先生! 私たち部活がしたいんです!! 同好会の設立に許可を下さい!!」
「いいですよ」
「本当ですか!? でも同好会の活動をしたら学校と啓太郎が鈴木のお母さんから訴えられてしまうんじゃないですか??」俺は早口でまくし立てた。
「その件ですが、鈴木君のお父さんが先ほど謝罪にきましてね、無しになりました。」
「やったぁ!!」湊が両手を上げて喜んだ。
「やりましたなぁ~」杏奈もゆるく喜んでいる。
一禾は大倉先生に視線を送り「これからは落ち着いて活動できますね、先生」と言った。
「鈴木君のお父さんも昔は小説家志望だったそうですよ。」
「鈴木の父親が?」
「えぇ、『私がかなえられなかった夢を叶えてください』と深々頭を下げて言っていましたよ。」
俺はその言葉に心寂しく感じるものが有り、胸が苦しくなるのを覚えた。
*** 渡り廊下 ***
俺はさっそく啓太郎に同好会認証の報告をラインで入れた。
スマホが鳴った。通話である。
「さっき、ラインを見ていてもたっても居られずに電話してしまったんだけど大丈夫カイ?」
「あぁ、今は休み時間だし大丈夫だ。訴訟の件も問題なし。お前も明日から出てきていいって話だったぞ」
「……」
「どうした?」
「ボク、嬉しくテ。どう感謝していいか分からないヨ」
「感謝んなんてしなくていいよ、俺たち皆一蓮托生っていったろ?」
「――ッ」啓太郎がスマホ越しに泣くのを堪えているのが分かった。
「啓太郎、嬉し泣きなら人前で泣いたって良いんだぜ」
「ブワッ――。」啓太郎がおいおいと泣き出した。そして有難う、有難うと何度も繰り返いしていた。
「にしても鈴木くんの父親が小説書きだったなんて意外なオチよね」一禾が言う。
「あぁ、鈴木母は知らなかったんだろうな」
渡り廊下にいい風が吹く。
「にしても、これってザマァって奴よね? 鈴木母より身分の高い一禾に成敗されたんだから」湊が言った。
「まさしく、そうでありますにぃ~」杏奈が答えた。
「ザマァってちょっと苦手意識あったんだけど、悪くないかもね♪」
「わるいやつだなぁ~」
「うふふふふっ」杏奈に向かって湊が悪そうに微笑んだ。
「確かに、ザマァいいかも。俺もザマァ書いてみようかな」
一禾はすまし顔で「好きにしたら」と笑った。
皆で笑いあい、その日は一日ぶりに文芸同好会の活動を行った。
*** *** ***
後日談になるが鈴木は不登校ののち転校していった。
一禾の祖父である桐生桃寿丸が今回の件について激怒したため鈴木父の経営する派遣会社との取引を停止する寸前まで陥り、従業員を失業から守るため鈴木父は鈴木母を切り捨て離婚することで事なきえたそうだ。
鈴木父は啓太郎父との取引を終わらせるという事もなかった。
そして鈴木歩は母親に引き取られたという事だが、働き方を知らない鈴木母は生活を男に頼るようになり、溺愛していたはずの息子をいつしか邪険にするようになり鈴木は居場所を失ったそうだ。
文芸同好会奮闘記 夢野アニカ @yumeno-a
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