第31話 図書館と読み書き
–未知流−
私たちはまたまた登城する機会を得た。
「なんか心細いから、一緒に来てくれよ」
慶太に言われた時はちょっとびっくりしたけど嬉しかった。
またあの素敵なお部屋に行けることももちろんだけど、慶太が頼ってくれた事の方が嬉しい。
「王宮に保管されてる古文書みたいなのを見られないかなって思うんだ」
「なんで?」
「歴史が知りたくてさ、この国の」
「ああ、魔法使いが何で嫌われてるかとか分かるかも知れないから?」
「そう」
「そんな大切なもの見せてくれるかなぁ」
「お前なら、頼めるだろ?昔から、あつ、
「頼めるけど、あつって何?」
「いや、えっと、何か今日暑いなぁって」
「ウソ、何か言いかけたでしょ」
「別に」
「そうかなぁ」
(あつって何だろ、あつもり、あつひめ‥‥)
オーティスとマリエンヌが自宅の馬車で迎えに来てくれた。マリエンヌは今日は少しおしゃれしている。髪をきちんと結い上げて、紫色のドレスを身につけている。
馬車の向かいに二人が並んで座ると、
(尊い‥‥‥)
私と慶太は、もう何も気にせず普段着を着ている。私は、それでも一応スカートを履いた。
今日も顔パスですんなり入城出来た。
また、王の私室で待たされた。王は公務で忙しそうだ。
アリアムが扉のそばに立ってずっと警護していた。
「やあ、マリエンヌ!久しぶりだな。すっかり快復したようじゃないか」
国王陛下は、部屋に入るなり、マリエンヌを認め両手を広げて駆け寄った。マリエンヌを軽く抱きしめて、「それに相変わらず美しい」と言った。
「まぁ陛下。もったいないお言葉ですわ」
彼女はドレスを少し持ち上げて、丁寧にお辞儀をした。
(あのお辞儀してみたい)
「陛下、この度はいろいろとお働き頂いたそうで、感謝の言葉もありません」
「他でもない親友の可愛い妹の為だからな、当然のことをしたまでだ。だが、主に動いたのはアイツだ」
親指でアリアムを指差して言った。
「ああ、あの時の。ありがとうございました」
閉じ込められていた部屋の鍵を壊して、マリエンヌを助け出したのはアリアムだった。
「ご快復されてよかったです」
助け出した当時の彼女の
「さて、ミチルとケイタは、今日は何用で来たんだ」
「あの‥‥‥」
慶太が私を見て無言で
「この国の歴史に関する物があれば、見たいそうだ」
「歴史?何でそんな物を?」
「魔法使いが
話をオーティスが切り出してくれたので、私は用済みとばかりに慶太が話を続けた。ちゃっかりしてるよ、ホント!
「前もそんなことを言っていたな」
「はい。魔法使いは、悪魔だと言われているのですよね」
「そうだな。そう言われて育った」
「僕たちもそうだよな、マリー」
「ええ、でも私は彼らは悪魔だとは思わないです」
以前、ロイスの件で教会で話した時も、マリエンヌはそう主張していた。
「そんなふうに教育されて来たのは、何か理由があると思うのです。ですから、ここに残されている文献とかを調べたら分かるのかと」
「なるほどな。俺たちは何の疑問もなく受け入れていたからな。だが、王家の秘密に触れるような文献を市民に簡単に見せるわけにはいかない」
「‥‥‥それは、ごもっともです。市民でもないですし」
「図書館にあるものなら、誰でも
オーティスがフォローしてくれた。
「ああ、図書館なら大丈夫だ、たとえ異世界人でもな」
陛下はニッと微笑んだ。
「王家の歴史に関するものも幾つかあるだろう。まずはそれを調べてみるがいい。持ち出しは禁止で、一応警護をつけるが」
「ありがとうございます」
–慶太–
昔から厚かましい性格だったから、未知流に話を切り出して貰おうと思っていたが、オーティスが言ってくれたので、すんなりと事は進んだ。
未知流と俺はアリアムに連れられて、王宮図書館に入った。
オーティスとマリエンヌは、国王の私室に残った。マリエンヌとは久々の再会だし、いろいろと話を聞きたいのだろう。
図書館は、ちょっとした公立の図書館くらいの蔵書を誇っていた。教会の図書室の蔵書とは比べものにならない。
高い天井まで届く書架の一番上までズラッと並べられた書籍の数々。殆どの書籍が革製の表紙に金や赤の飾り文字でタイトルが書かれている。
本を読む為の机や椅子は、繊細な彫刻がなされていて材質も高級そうな豪華なものだ。
「うわっ、広っ!探せるかな」
未知流が心配そうな声を上げた。
「そうだなぁ」
俺もちょっと不安になった。これは何時間どころか何日間もかかるぞ。
しかし、割合にキチンと仕分けされていたので、歴史書のあるコーナーだけ探せばいいことが分かった。それでもかなりの冊数だが。
俺たちはそこで数時間かけて、何冊かの歴史書を読んだが、何も得られなかった。
余り長居する訳には行かないので、途中で切り上げて、騎士に連れられて王様の部屋に戻ると、オーティスとマリエンヌは、退去していた。
「子どもを置いて来ているからって帰ったよ。教会にはウチの馬車で送ろう」
「乗合馬車を呼んで下されば、それで帰ります」
俺は申し訳ないので断ろうとした。いや待て、馬車を呼ぶって、電話無いのに無理じゃん。たまたま誰かを乗せて来た馬車を捕まえるしかないのか。
「なに、遠慮は要らないさ。乗合馬車には一度乗ったことがあるが、最悪な乗り心地だった」
国王のお言葉に甘えて、王家の馬車で帰った。国王陛下がどんなシチュエーションで乗合馬車に乗ったのか、ちょっと気になった。
「全部は読み終えてないので、また伺っていいですか」
「ああ、じゃあ、入り口でこれを見せてくれ。すぐに入れるだろう」
陛下は、何やら書類にサインをして渡してくれた。入城許可証だった。有り難い。これで、オーティスがいなくても入れる。
その後二回王宮に通って、二人して図書館で資料を読み
乗合馬車に一時間以上揺られると、腰と気分が悪くなったが仕方ない。王宮に入ると、許可証で図書館に直行して、迎えの時間を予約しておいた乗合馬車で帰った。
☆○
王宮に行くと半日くらい潰れてしまう。このところ厨房の手伝いも出来ない日があった。
「大丈夫よ、元々ジュールと二人でやってたんだから。それより、王様の用事の方が大切」
ナディシアはそう言ってくれた。ジュールも頷いた。
いや、王様の用事で行くんじゃないけどな。何か申し訳ない。
集会所の掛け算教室は、九九を唱えるだけでいいので、教会にボランティアに来る人の中から代替教員を立てることもあった。
「任せてください、もう完全に覚えましたから」
その人はスラスラと九九を唱えてみせた。
算数教室は掛け算九九教室のようには行かないので、時々休講または自習にする事もあった。
「採点だけならわしでも出来るぞ」
自習用に作ったテスト用紙の採点をノーディン院長が買って出てくれた。彼はもうこちら側だ。
「読み書きも教えたほうがいいんじゃないか?」
院長からの驚きの提案だった。
院長は、孤児院のスタッフの中から、教員に相応しい人材を探し出し、読み書き教員として
実は、最初の国王との謁見で孤児院での算数教室の話をした際に、補助金が支給される事が決まったのだ。院長はそれを踏まえて、読み書きも教えることを思いついたようだ。何にしても子ども達にとってより良い環境が作られたわけだ。
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