第30話 裁判と判決
–未知流–
「さすが権力者だねー、仕事が早いや」
私はホントに感心してしまった。
アリアムは、公爵家への奴隷売買の事実を人買いに証言させ、司教襲撃がクリスタン卿の依頼だということの
『公爵様はよぅ、司教を殺し損ねたからって、金をびた一文よこさなかったんだ。その上、逆に俺を脅しやがった』
クリスタン卿は、金を渋ったことが
予定通り、人買いは司法取引で国外追放にされた。
翌日にはアリアム率いる十人の騎士団が、モートデルレーンの屋敷に踏み込んで、奴隷達を発見した。
「わしを誰だと思っているんだ」
公爵はやはり抵抗したらしい。
お祭りの日に、馬車の中から聞こえた怒鳴り声と全く同じ台詞だ。しょっちゅう言い放っている言葉なんだろう。これを言われたら下々の者は『ははぁ〜』と平身低頭するんだろうな。吐き気がする。
「国王の命により、屋敷の中を捜索させて頂きます」
アリアムは、国王のサインの入った書類を見せて言った。
「そこは裁判官のサインじゃないんだね」
「一応、裁判官はいるみたいだけどな、国王の方が上なんだろ」
奴隷が監禁されていた場所は、異様な臭いが立ち込めていたという。何年も洗っていないであろう身体から発する臭いだ。床に敷かれた薄い布の上に三人の男たちは寝転がっていた。
三人とも
三人は王宮の牢獄に入れられた。牢獄の方がまだましだということだった。
「魔法使いでなければ、自由の身だったのに」
「何とかして、魔法使いも牢獄から出してやりたいな。ロイスの言ってた爺さんは、病弱なんだろ」
慶太は、ロイスに何と報告しようか悩んでいた。
裁判の結果、公爵夫妻は奴隷監禁と人身売買の罪で王都追放、自分の領土に帰された。二度とこの地には住めなくなる。あの広大な屋敷は国王に没収された。夫妻は、家財道具を持って領土に引っ越して行った。
「そこにも家はあるんでしょ。持って行った家財道具入るんかな」
私は妙な心配をした。
雇われていた使用人たちは大半が解雇された。
「なんか申し訳ないね」
「でも、すぐにもっといい働き場所が見つかるさ。あの公爵の元で働けたんだから、きっと使用人としてのスキルは高いんじゃないかな」
「黙々と仕事してたもんね」
クリスタン卿には、司教殺害
「裁判、早っ!」
「びっくりだよなぁ」
マリエンヌは部屋から助け出されて、娘のエリーザと共に実家に帰った。
マリエンヌは奴隷の存在を知っていたが、三人の奴隷の証言により、情状
「エリーザを、私たちの孫を一緒に連れて行かせてちょうだい」
公爵夫妻がエリーザを連れて行きたがったが、マリエンヌはそれを拒んだ。エリーザは、マリエンヌに似て、素直で優しい子に育っている。このまま、綺麗な心のまま自分の手で育てて行きたいと思った。
幽閉されている間、彼女は愛娘にも会えなかった。娘には、母親は伝染病だと伝えられていたという。
マリエンヌは
「離婚はしないの?」
「いずれするんじゃないか?」
「ルイードと結ばれて欲しいな」
「そこは俺たちが口を挟めることじゃないだろ」
ルイードは一度、マリエンヌを見舞った。二人がどんな話をしたのかは、誰も知らない。
–慶太−
この国の裁判や判決の早さには心底驚いた。人買いが捕えられてから、ひと月のうちに全てが決定した。
弁護士がいるわけでもなく、三審制度がある訳でもないこの国の裁判は、江戸時代のお白洲となんら変わらないのだろう。
事の経緯は全部オーティスから聞いた。オーティスは、定期的に幼馴染みに会いに王宮を訪ねているのだろう。
オーティスは、マリエンヌを救い出せた。
ルイードを襲った犯人は捕まった。
全ては丸く収まったようだが、俺はそうは思えなかった。
「奴隷にされていた人達は、みんな屋敷から解放されて、自分の生まれたところに帰ったんだよ」
俺はロイスに嘘をついた。今度は牢獄に入れられたんだ、とは言えなかった。
魔法使いが虐げられない世界にしたい。そう願った。それには、この国の歴史を知る必要がある。俺は毎日そのことばかり考えていた。
更にひと月が過ぎたある日、オーティスがマリエンヌを伴って教会を訪れた。
「もう外出できるんですね」
「はい、おかげさまで。本日はロイスに会いに参りました」
「彼は待ち
「それと、ルイード司教様、先日はわざわざお見舞いに来て頂きありがとうございます」
彼女は少し顔を赤らめていた。ルイードはそんな彼女を見つめて、「元気になられてよかったです」と応えた。
彼女は以前の顔色を取り戻し、相変わらず美しかった。と言っても俺は、具合の悪かった彼女には会ってないから、これは聞いた話だ。
「あの、ロイスに会う前にお願いがあるのですが」
俺はマリエンヌに一つ言っておかなければならない事があった。
「何でしょう」
「ロイスには、奴隷にされていた人達はみんな自分の国に帰ったと言ってるんです」
「まぁ、そうなのですね」
「牢獄に入れられたって言えなくて‥‥‥」
「分かりますわ。でも、何故、魔法使いは捕えられないといけないのでしょう。ご存知ですか、お兄様?」
「僕も知らないんだ」
「誰に訊いても分からないって言うんです」
「ルイード様も?」
「はい。大昔からそう伝えられて来たとしか」
「ジョリーも分からないって言ってたよ」
「え?国王陛下もですか」
「王宮の図書館で調べたら分かるかも知れないな、この国の歴史が全部残されているだろう」
「国王なら歴史はご存知なのではないかしら」
「ジョリーは何も知らずに国王になったからな」
そうか、王宮なら古文書のようなものがありそうだ。オーティスはいいところに目をつけてくれた。何とかしてそれを見る方法はないか。
「あの、国王陛下にもう一度お会いすることは出来ますか」
俺は思いきって切り出した。
「ああ、いつでも行けるさ。いつがいいかい?」
「明日にでも」
「じゃ、明日の朝迎えに来るよ」
「お兄様、私も一度陛下にお礼を申し上げたいですわ」
マリエンヌも行きたがった。
「そうだな、ジョリーも気に掛けてたからな、明日一緒に行こう」
「ミチルもいいですか?」
俺は正直一人では心細かった。
「もちろん」
ロイスには口裏を合わせることをお願いして、二人を孤児院に案内した。
孤児院では、麗しすぎる二人の登場に子ども達が湧いた。未知流もその一人だが。
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