第32話〈side 陸瑞〉

 初めて訪れた、宝頴郡ほうえいぐん

 向こうに見える、宝石のように光り輝く宮殿が……ほうしょうぐう、か。


「まぁ、綺麗ねぇ」


 その様子をながめてほほむお袋は、ずいぶん能天のうてんな顔をしていた。

 こう英紗えいしゃも宮殿を見上げ「おおきいな」と呟く。


 黙っていたのがおれだけとは、どういうこと。


ぎょく蘭殿らんどのはつい先日、毒を盛られて体調を崩されました。今はほぼ完治しているとのこと」


 毒か……毒……。

 誰なんだろうな盛ったやつ。全員まとめてシバけるが……先に玉蘭が倒していそうで怖い。


「毒ですって!? どこのどいつが……!!」


 本当に、四人の子供を女手一つで育ててきた母親か? と疑うくらいに感情をむき出すお袋。

 何なら文官ぶんかん喉笛のどぶえに掴みかかる。マジ落ち着け。


「ま、まあ、だ、大丈夫かと」

「証拠はどこにあんのよ……!!」


 ああダメだ。俺は天をあおいだ。


 * * *


 だが。

 門をくぐって玉蘭の無事を確認した途端、その怒りはおさまったのだった。




 「宝晶宮のカリスマ太守は、貧しい物売りの娘を寵愛希望?」番外編 完

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【1000PV突破!】宝晶宮のカリスマ太守は、貧しい物売りの娘を寵愛希望? 月兎アリス@KKG所属 @gj55gjmd

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