第31話

「うんうん、ずいぶん上達したわね」


 あれからというもの、わたしは毎日楊鶯ようおうさんのもとへ通っていた。

 最初は音色さえ分からなかった琵琶びわを弾けるようになっていって……達成感を感じつつある今日この頃だ。


「ありがとうございます」

「これも全て、あなたの努力の功名よ」


 そんなことないです、と照れ笑いしながら答える。

 全部、楊鶯さんの教え方が上手なおかげだ。私は……言う通りに弾いているだけ。


「陸さんは謙虚けんきょな方ね」


 謙虚? いや、目上の方の前で自分を謙遜けんそんするのは普通では?

 と思ったが、どうも楊鶯さんには謙虚な人に見えているらしい。


 そ……そんな、ちょっと恥ずかしい……。


「あの子の正室として、立派にやっていけると思うわ」

「そ……そんなことは……」


 今だって、彼とは不釣ふついだって自負じふしているし……。

 何だったら、見栄えなら秦芙蓉の方がいいんじゃないかって思ってる。


「琵琶ができたら、次は食事作法。それから式典での立ち振る舞い……」

「は、はぁ……」


 さ、先が長い……。

 これを全部やるんだ、私……き、気張らないとね……。

 一から学ぶんだもの……!


「陸さんは全て初めてよねぇ……」


 何も知りませんって状態から完璧に仕上げるわけだから、骨が折れるのは分かる。

 今だって、楊鶯さんの言っていることが全然分からない。

 ……ショクジサホウ? タチフルマイ? って、どんな?


「ピンとこないわね……」

「ですね……」


 ある意味、絶望した瞬間だった。

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