最後まで暗かった

白川津 中々

◾️

「一緒に死ねばよくない」



もうなんともならないと妻に話すと、はっきりとそう言ってくれた。

正直彼女の存在は重荷であったが、ともに命を絶ってくれるというのであれば心強い。「ありがとう」と礼を述べ、練炭と酒と、それから睡眠導入剤を用意して二人で浴室に入り、目張りして濡らした新聞紙の上に七輪を置いて着火。そうして酒を飲み、裸で絡み合った。避妊具をつけない行為は初めてだった。粘性のある暖かさにかつてない快楽を感じた。




「私、そんなにあなたの事好きじゃなかったんだけど、一緒に死ねて嬉しい」


「俺はずっと好きだったよ、君の事」




朦朧とした中で体液に塗れながら俺たちは何度も口付けを交わした。これで死ぬのか、死ねるのか。死を考えながら、俺は妻の中で絶頂を迎えた。酒に酔って、女を抱きながら死ぬ。なんだが文豪のようだなと思った。何も生み出せなかった平凡な人生の最後には似つかわしくなく、思わず自嘲した。




「笑えないかい、こんな死に様」




返事はなかった。腕の中にいる妻は既に意識を失っている。確実に死が近付いている。俺も、こうなるのだ。酒を飲み、目を閉じると暗かった。なにもかもが、暗かった。




「死にたくなかったなぁ」




そう呟いてしまった。最後まで、様にならないものだ。

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