暴走将軍曰く「人類皆、一京匹の飼主だったなりね」

暴走将軍曰く「人類皆、一京匹の飼主だったなりね」

——いちおくまん年後の未来。

　時は、超（スーパー）デジタル・ネオ・エド時代！

　ネオ・エド幕府五代将軍、根尾徳川手綱握吉（ねおとくがわたづなにぎりよし）は、今日も正室や側室とのお戯（たわむ）れなどそっちのけで、波素混（パソコン）三昧（ざんまい）なり！　正室の信子（のぶこ）は、襖（ふすま）と柱の隙間から、手綱握吉の操る出巣布霊（デスプレイ）をそっと覗いているなり！

「手綱握吉様……今宵も信子を誘ってくださらぬので？」

「黙れ信子（のぶこ）！　胤（たね）はつまり子供の素！　殺生は……殺生はいかぬ！　殊（こと）に余は、早漏にて候（そうろう）！　制御不能（アウト・オブ・コントロール）なりね！！」

「さようでございますか。ごめんあそばせ……」

「うぃ」

　信子は寂しそうに去っていくなり……

「できたなり！　誤りは……無いなりか？」

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【ネオ・生類憐みの令】

例外無く動物の類を痛めつける者は全て死刑に処すなり。

◉（←エクストリーム大刷新ハココヨリ）

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「条文よし！　これをポチッと押せば施行完了なり！」

　手綱握吉が魔右洲（マウス）を操作せんとした刹那、一人の禿頭（はげあたま）が、襖を突き破って駆けつけてきた模様！　その男、奥医師（おくいし）のトップ、典薬頭（てんやくのかみ）半井驢庵（なからいろあん）なり！　

「上様、それだけはしてはなりませぬ。生物の体は全て、相利共生（そうりきょうせい）関係にある生物の集合体でございまする！」

「黙れ坊主！　医者は信じぬ！　十中八九術中人殺し（ファ◯ク）してるもんね！　無視無視、虫ケラ反乱分子！　なり！」

　手綱握吉は、助言を盛大に無視なり！　容赦なく魔右洲（マウス）をポチる模様！

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ホントウニダスナリカ？

ヨロシ● ↖︎ﾎﾟﾁｯ

ワロシ◯

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「あな、押してしまわれたか……無念」

　驢庵（ろあん）顔色いとわろし。呆れて退出なり！

「漸（ようや）くヤブ医者が消え失せたわ！　これでヨシヨシ手綱握りヨシ！　さて床に就くとするなり！」

　手綱握吉は、勢い強めで床寝転がるなり！

＼ゴン！／

　床に後頭部打ちつけ音。

「いっつぁ。愚かにも頭打ったなりね」

　痛がりて、打った頭撫でるなり！

＼羅印（ライン）♪／

　須磨帆（スマホ）の通知音けたたましき！

「なんぞや？　こんな遅うに滅政治（メツセイジ）送りしは誰（た）そ？」

〔汝、愚カニモ殺生セシ故ニ、死罪に値ス。只今町奉行機械人形（まちぶぎょうロボ）出動セリ。大人シク待テ。〕

　町奉行よりの羅印（ライン）滅政治（メツセイジ）、来にけり。

「ファッ！？　なんぞやこ（・）が怪文書！　なり！　削除削除削除削除ォ！　なり！」

＼ドンガラガッシャァン！／

　爆音す。

　手綱握吉窮地に陥り！

　大勢が壁ぶち破りてカチコミにけり！　

　町奉行機械人形（まちぶぎょうロボ）、参上なり！

「汝、命ある細胞小器官（ミトコンドリア）殺メタリケリ。将軍様トテ、問答無用、オ縄頂戴スル！」

　町奉行機械人形（まちぶぎょうロボ）、将軍を襲うなり！

「うるさいなり！　オラァ！」

　手綱握吉は、町奉行機械人形（まちぶぎょうロボ）のお頭（つむ）を殴りつけたなり！　

＼ゴオォォンンン！／

　鈍い音、響き渡り。

「効キマセヌ」

「くぅ！　痛ってぇなり！　手が腫れ申したわ！　人間虐待なり！　お主早速『ネオ・生類憐みの令』に違反なり！　違反者第一号なり！」

「ソレハコチラノ台詞（セリフ）。細胞死ヲ感知！　タッタ今、上様ハ御身ガ細胞ノウチ数百ヨリ数千匹ヲ殺メタリケリ」

「はぁ！？！？！？！？！？！？」

　手綱握吉、脳内疑問符大量生産！　理解不能なり！

「好気性細菌（ミトコンドリア）トイフ生物ヲ殺メタリケリ……」

「王（オウ）・舞（マイ）・我（ガ）ァ……」

　手綱握吉、己が過ちに気づいたなり！

　人の体は、一細胞あたり一〇〇から二〇〇〇の好気性細菌（ミトコンドリア）を有するなり！　全身で単純計算、数千兆から数京個に上るなり！　頭打ちし衝撃と殴りし衝撃で、相当数死んだなり！

「殺生ハイケマセヌ。サァ、ゴヨウダゴヨウダ！」

「待て、違うぞ、これは分子機構制御由来、細胞の自殺（アポトーシス）に過ぎぬって！　他殺でなく自殺なり！　はい論破！　なり！」

「言ヒ訳ハ無用！　ソレハ正真正銘、損傷による死（ネクローシス）！　ゴヨウダゴヨウダ！」

「ヒェ！　ごめんあそばせぇええええ！！！！」

　好気性細菌（ミトコンドリア）を、人と共生するだけの別生物と捉えれば、その死は殺生と見做（みな）すことも可能。さすれば人は恒常的に殺生しまくりし故に、容易に死刑。『ネオ・生類憐みの令』は悪法越して愚法、大失敗に終わりにけり。

〈諒〉