第3話
「どうしましたか?リョウ?」
「新しい姿を俺たちに渡すって言ってたよな?」
「ええ。そう申しました」
「あんた……上司を含めて何者なんだ?姿は見えないし、死んだはずの俺たちと普通に会話してるし」
「神様ですわ。あ、私は神ではなく神に従うものですけれど」
神様、かよ。
「宗教がらみか?」
「まさか。宗教って、あなた方人間が勝手に作り上げたものですよね?神様を奉って──時として自分たちに都合がいいように作り上げたり捻じ曲げたりして。そんなものとは違いますわ」
「神様は全てを見守られている存在なんです。人間に限らず命あるものすべてを。そして必要があれば、手を差し伸べてくださるんです」
「だったら、俺たちが遭った事故は?あれも神様とやらの意志だって言うのか?」
「違います。断じて違います!」
それまでのほんわかとした口調とは全く違う、強い口調で声は答えた。
「あれは神様の意志ではありません。イレギュラー……他者の意思です」
「神様のほかにも人間とかほかの生き物に手出しをできる存在があるの?」
「あります。神様が正の意思としたら負の意思を持つ存在があります。あの事故は、負の意志の持ち主によって起こされたものなのです」
「負の意思を持つものを作った存在がある、ということでいいのかな?」
「話が早くて助かりますわ。そのとおりです」
「合っててよかった。いや日本に限らず世界の神話でも、すべての神々の上に立つ創造神のような存在が書かれているからね」
タツヤってば、そんな本まで読んでたんだ。
「負の意思を持つ存在なんて、最初から作らなければいいと思うんだけどねぇ」
「そうもいかないんだろ?バランスがとれないとかなんとかってさ」
「あ~ね~。ねぇねぇ、それより早く新しい姿、渡してほしいなぁ」
「そうですね。じゃあ、お渡しいたします」
「ちなみに、新しい姿ってどういうの?」
「私にもわからないんです」
「君も見てないの?」
「いいえ。お渡しするその場で決定するんです。じゃあ行きますよ~。ルーレット──Go!」
それ、俺たちの掛け声じゃないか。
パクリかよ?
そう思った瞬間、まばゆい光に包まれた。
思わず目をつぶる──実体がなくてもまぶしさって感じるものなんだな。
しばらくたって目をあける。
俺が目にしたのは三人のすがた。
みんな地面に座っている。
一人は中年のオジサンでもう一人は小学生?くらいの少年。
さっきの光の位置から想像すると、少年の方がハヤトだろう。
そしてもう一人は若い……女子高生か?
三人は俺をまじまじと見ている。
「おいハヤト?なんだよ、お前、小学生になったのかよ?」
そう、言ったつもりだった。
だけど……。
【ワンワン】
俺の口から出たのは──犬としか思えない吠え声だった。
【ワンワン(犬?なんで俺が犬なんだよ?)】
「え?リョウ?リョウは犬の姿になったのですか?」
「うわ!可愛い。こんなワンコ欲しかったんだ」
「っと、リョウが犬の姿をしているのも驚きだけど、どうして『何を言っているか』がわかるの?」
「えっとですね。依頼をこなすために私たち四人の言葉は、言語としてではなく意思として互いに伝わるようになっているんです。もちろん他者に対しては発せられたそのままでしか伝わりませんが」
「そっか……だから耳には『ワンワン』と聞こえているのに『犬?なんで俺が犬なんだよ?』と言ったと理解できるんだ。便利だな」
【ワンワン(いや、犬だなんてオレは認めねぇ!)ワンワン(別の身体をよこしやがれ!)】
「残念ですけど……新しい姿に関してのルーレットは一度きりしか使えないんです」
【ワンワン(いや、一度きりってありえねぇだろ?)ワンワン(せめて人間にしろよ)】
「こればっかりは、私にもというか上司にもどうにもできないんです」
女子高生の姿をした自称神に従うものが申し訳なさそうに答える。
「私自身も、こんな姿は望んではいなかったんですが」
「ねえ、リセマラってできないの?」
「リセマラ、ですか?それって何ですか?」
「えっとね、ゲームとかで気に入ったキャラが出るまでガチャを引き直すことを言うんだけど」
「……そういうシステムはないんです。上司からは、ひとつの案件につき一度しかルーレットは回せないと言われているんです」
【ワンワン(っ!なんだよ、そのクソルール!)】
「それに関しては、私にはどうにもできないんです」
女子高生がうつむいて鼻をすする。
──女を泣かせてしまった。
【ワンワン(わーったよ。とりあえず我慢してやんよ)】
「ありがとうございます」
【ワンワン(くそっ!なんでよりにもよって犬なんだよ)】
「そういえば、ぼくたちはどんな姿になってるの?リョウのすがたにびっくりして確認するの忘れてたけど」
「えっと……ハヤトは十歳くらいの少年ですね。タツヤは五十歳くらいの成人男性です」
「えぇ!十歳って」
「……五十歳」
ふたりともショックを受けているらしい。
「その……今の姿を自分で確認することはできないかな?鏡とか、さ」
「鏡!そうですね、鏡をご用意することはできます」
「まさか鏡を出すのもルーレットでって言うんじゃないよね?」
「いえいえいえ。鏡くらいだったら私が出せます」
そう言うとどこから出したのか、棒のようなものを一振りした。
と、何もなかった空間に鏡がひとつあらわれた。
飾りも何もついていないシンプルな姿見だ。
「うわ……ほんとに十歳くらいになってる。もうすぐハタチだーって
喜んでたのになぁ──まさかの小学生に逆戻り」
「若返った方がまだマシだよ……俺なんて冴えない中年のオジサンだよ?髪だって薄いし」
【ワンワン(それでもお前らは人間だろうが!)ワンワン(俺なんて犬っころだぞ?)】
「たしかにワンコだけどさ、すっごく可愛いと思うよ。タツヤもそう思うでしょ?」
「うん。今まで見た犬の中で一番可愛いと思う──マジに、お世辞抜きで」
鏡の中の自分を見る。
頭から尻尾の先まで真っ黒な姿で、四本の脚の先っぽだけが白い。
顔も確かに可愛い……んだろう。
凛々しさはないが、こういう顔は愛嬌があるというのか?
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転生ワンコ~人気アイドルだった俺がワンコに転生?!しょうがねぇ、このまま天下を取ってやる! 奈那美 @mike7691
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