第2話

  「『リョウさん』と呼べる存在ではなくなったから?いったいどういうことだよ」

「言葉通りの意味ですわ。あなた──リョウという人間は、この世に存在しなくなったのです。あの事故で」

あの事故……照明器具が落ちてきたことを言っているのか。

「俺は、あの事故で死んだということなのか?」

 

 初めてのソロ・コンサートだったのに。

これからアイドルとして活躍していく……そのスタートとなるはずだったのに。

コンサートで、ただの一曲も歌うことがないまま、事故に巻き込まれて死んでしまうなんて。

俺の人生って、なんだったんだよ?

 

 「ストレートに言っちゃうと、そういうことになりますね」

「ストレートじゃなかったら、なんて言ったのかよ?」

「えーっとですね。とでも言いましょうか」

「……十分ストレートじゃないかよ」

 

 「ところで、ここはどこだっていうんだ?」

「ここは……説明が難しいですわ。とりあえず裏日本、とでも言っておきます」

「裏日本って、どういうことだ?というか、俺が死んだってことが、そもそも納得できねぇ。こうやってどっかのだれかとしゃべっているし、身体だって……え?」

俺は右手で自分の胸を叩いた──はずだった。

細身だけど鍛え上げた胸筋がついた胸を。

だが、俺の手は空を切った。

 

 「え?どういうこと……」

あわてて自分の手を見る──何もない空間がそこには広がっていた。

「な、なんだよ?身体!俺の身体はどこにいったんだよ?!」

「やっと、身体がないことに気がついたんですね」

「やっと……って、どういうことだよ」

  

 「お仲間は、もうとっくに目を覚まされていますわ。くわしくは皆さんと一緒に説明しますね」

お仲間……タツヤとハヤトのことだ。

俺としたことが、あいつらのことを今まで思い出しもしなかったなんて。

まてよ……。

「目を覚ましてってことは、あいつらもここにいるのか?」

 

 「ええ、少し離れた場所で待たれてますわ。リョウも今からそちらへ案内いたします」

案内って……どうするんだ?

身体がないのに、どうやって移動するんだろう?

そう思っていると、なんだか俺の周囲の空気が動いたような気がした。

「着きましたわ」

しばらくたったころ、声がそう告げてきた。

 

 周囲を見回しても、さっきまでと同じく何もない。

タツヤとハヤトの姿もない。

「おい、あいつらはどこにいるんだよ?」

「まだ姿を渡してませんから見えないのです。全員揃ってからにしろって言われていますので」

 

 「言われてって、誰に?」

「私の上司に、ですわ」

上司……ねぇ。

「おまたせいたしましたわ。今からみなさんにご説明いたします」

 

 説明するといわれてもな……ふと隣を見るとなんだかぼんやりと光るものが見える。

淡い緑色の光と、もうひとつは黄色い光。

もしかして、この光って──。

 

 「遅かったな、リョウ」

「ほんっと、待ちくたびれちゃったよ」

やっぱり、この光はタツヤとハヤトだ。

「わりぃ。自分がどんな状態なのかわかんなくてさ……今もイマイチわかってないんだけど」

 

 「うんうん。ぼくも最初に聞いた時にはなんのこと?って思っちゃったもん」

「だよなぁ。いきなり『あなたは既に亡くなっています』なんて言われても、面食らうよな」

「ふたりとも……俺と同じような説明受けて、どうしてサックリ納得できたんだよ?」

 

 「え~?だって、目が覚めたときに怪我は?って思って手を見たら、そこに何もないんだもん」

「そうそう。怪我を確認しようとしたら、手も足もなくってさ。めっちゃ焦ったよ──すぐに説明聞いたから納得したけどね」

……気づくの遅かったの、俺だけかよ。

 

 「では、とりあえず説明させてください。あなた方には、今から元の世界に戻っていただくことになります。でも元の姿では戻れません」

「はい?元の世界には戻れるけど、元の姿では戻れない?それって、どういうことなの?」

「そりゃあ事故で亡くなったはずの三人が元の姿で戻ってきたら、大騒ぎになるじゃないですか」

 

 「あのあとの報道、ものすごかったんですよ。悲劇のアイドル!だとか無念!初コンサートの惨劇!!だとか」

そうだろうな……芸能人たちの事件や事故のあとは報道がハンパなかったもんな。

──報道でどんな映像が流されたのか、聞いてみたいような聞くのが怖いような。

 

 「元の世界に戻るってさ、生まれ変わりってやつ?それとも転生になるの?」

ハヤト……順応が早すぎる。

俺の頭が固いだけか?

「そうですね、今回は転生になります。生まれ変わりだと赤ちゃんから始めることになるので、それでは時間がかかりすぎちゃいます」

 

 「元の世界に戻るってことは、そこで俺たちに何かしてほしい事がある、という解釈でいいのかな?」

……タツヤまで順応してる。

「そうですね。してほしいことというか依頼があるのは事実ですね」

「いったい何を、したらいいの?」

「暮らしてください」

 

 「え?今、なんて言ったの?暮らしてくださいって聞こえたよ?」

「間違いございませんわ。暮らしてください……私と一緒に、家族として」

「家族?」

「そうですわ。そして、私の手伝いをしていただきたいのです」

「それって……君の上司からの依頼?」

「そのとおりです」

 

 俺以外の三人だけで話が進んでいってる。

もともと喋るのは得意じゃないから別に不足はないけれど。

「でもさぁ。家族ってどんな構成になるの?僕たちは生前は全員男だったんだよ?三兄弟って設定になっちゃうの?でもって男三人に女性一人のきょうだい?」

「えぇっとですね、ここからが本題となりますが……とりあえず皆さんに新しい姿をお渡ししますね」

 

 「あなたから渡してもらうの?」

「お渡しするのは私ですが、与えて下さったのは上司です」

「そっか。どんな姿をもらえるんだろ?元の姿と似てると嬉しいけどな」

……ハヤトのやつ、なんだかワクテカしてるけど。

いや、そもそもその前に。

「ちょい待った!」

 

 

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