葡萄と檸檬のような恋

ある女は恋をした。

長い長い片想いをしていた。友人達にこぞって反対されるような悪評ある男への恋慕であった。

男は由諸ある家の次男であり、彼の行動がどれだけ派手でも表立って問題にはならなかったが、悪評は水面下から広がるものである。公の場では良い家柄の男。しかし学校一番の問題児であった。

女はそんな男に家柄関係なく恋をした。男の評判ではなく内面の繊細さや、その繊細さの裏返しのような悪評に力強ささえ感じていた。

女癖が悪かろうが、教師の評判が悪かろうが、女は男に恋をしていた。

しかしそんな男が変わった.

教師陣に指導を仰いで自分を変えようとしている。

男の周りを舞っていた美しい蝶達は遊びを断られるようになっていた。

まだ噂も塗り変わらぬうちに女はその事実に気づき、その向こう側の真実にも感づいた。

男を変えてしまった者の存在に感づいた。

女はその日から今まで同調したことのない男の古い噂に頷いて相槌を打つようになった。

友人の助言に笑顔で同意するようになった。

男が変わった日に女は男と言葉を交わすまでもなく変わってしまった。


ある女も恋をした。

身分違いの恋だった。良家の娘として大事に育てられた女は、高嶺の花故に孤独であった。

唯一の心の支えは幼馴染であり、世話係の男であった。誰よりも傍に居て気遣ってくれる存在であった。

しかし女には多くの縁談があり、この度その中の一つが大きく動いた。

由諸ある家の次男坊である婚約者は女と初めて出会った日に女に恋をしたという。女は悪評のある次男坊ならばこんな家柄だけの地味な自分等気に入らないだろうとあえて上手くいかないであろうその縁談だけを家の顔を立てるために受けていた。

話は女の思惑通りに行かず、女と次男は許嫁となった。

それが決まった日、世話係の変更の話が来た。言葉を濁し、自分の幸福を願う幼馴染の好意は自分と同じものだと、言葉を交わさずともわかっていた。わかっていたつもりだったが、あまりにもあっけなく居なくなってしまった男の心情はもはや確かめようもなかった。

許嫁はとても女によくしてくれた。

許嫁となり、言葉でも気持ちを伝えてきた男は、目が仕草が、女を愛しているのだと伝えてきた。

深い愛は真実であり、女もきっと許嫁を愛することができるとわかっていた。

待ち受ける未来は今の自分が想像できないほど幸福なのだろうとわかっていた。



しかし2人の女はは独りきりになったなら同様に呟き、涙を流した。

「でも、どうしようもなく愛していたのです。」

防衛本能で守り切れない心根だった。


















解説:酸っぱい葡萄理論『自分の手に入らないものの価値を下げて自分の心を守る』

甘い檸檬理論『自分の欲しかったものが手に入った時想像と違っていたがものの価値を上げて自分の心を守る』

少し解釈が違うかもしれませんが、上記の二つを題材にした小話です。

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