真面目な友人
私には真面目な友人が居る。
真面目というのはとても美点であると私は常々思っていたが、そうでない者…不真面目な者にとってはとても恐ろしい者だ。所謂敵に回すと恐ろしいというやつだ。
友人はルール違反を許さない。幼き学び舎の頃より友人は真っ向に不正と立ち向かう姿勢を持っており、それは少年、青年に上がっていくほどに徹底されていった。
生徒にも教師にも人望が厚い。そしてさらにすごいことに彼の真面目さは周りにも影響を与え、彼の周りからは不真面目な人間は立ちどころに居なくなってしまうのである。隣に居ても遠い存在であると平々凡々な私などはよく思っていた。
その疑問をそのままに友人に「なぜ私のような人間を傍に置くのだ」と問いかけたことがある。友人は「君のように決まりを守る人を他に知らないから」と笑顔で答えた。小市民でルール違反できないだけの私だが、尊敬する友人にそう言われれば誇らしかった。
ある授業で私達は鷲を飛ばす授業をした。
私達の国は狩りが盛んな国であり、少年の頃に銃と鷲の雛を与えられる。その鷲は国の決めた範囲ならば自由に飛ばして良いとされるのだ。
その日、友人の鷲は非常に珍しくいつもの道順を違えた。友人はそれを見逃さず自らの手で鷲を撃った。鷲は鳥の国境を超えることなく墜落した。
鷲は幸い植木で落下の衝撃を抑え、弾は掠めたのみなので回復するとのことだった。
「この子が本当に道を違える前に止められてよかった」
友人の友の無事に安堵する私の横で、友人は別の事に安堵していたのだった。
2人で鷲を介抱し、血の滲むガーゼを抑えながら私は言う。
「けれど怪我が心配だ。」
「大丈夫。生きているし、これでもうこの子は道を間違えない。」
なんでもないことのように友人は言った。
それから時々考えてしまう。
彼の周りから不真面目が居なくなるのは本当に影響されただけなのだろうか。
幼い頃からの友に銃を向けられる友人はいつか私にも銃を向けはしないか。
こんな風に友人を時折恐ろしく思える私は彼の敵になってはしないか。
彼を敵に回すわけにはいかないのに、最近そう思うのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます